おわりに
司会者 (川上宏二郎 西南学院大学法学部教授)
最後に、今日司会を務めました私の立場から、まとめということをするようになっておりますので、一言お話しておきたいと思います。
今日のパネルディスカッションでは、第一に、多彩な顔ぶれの方々のご参加を得て、それぞれのお立場から、それぞれの切り口で問題点を出していただき、非常に有意義ではなかったかと考えております。行政苦情救済というのは、やはり他の制度では補えない欠陥を埋めるためにできている制度でございますから、この行政苦情救済機能がうまく働けば万事めでたしめでたし、というものでもないわけであります。いろんな制度がいろんな仕組みを通じて、お互いの欠点を補いながら国民の権利・利益の救済に万全を期していく、ということが必要であります。ここに、我々の民主社会の一つの知恵があるのではないかなと考えます。そういうふうな行政苦情救済推進制度をご理解いただくことがあってもいいように思います。
それから二番目は法と行政の関係でございます。
行政は、法律に決まっていればそのとおりのことをしなければいけない。これを法治行政といいまして、行政は法に縛られる運命にあります。ところが、この法に縛られる運命にあるから、それだけで事が済むかといえば、世の中はそうではないというところに難しさがあるわけであります。
ジャコビー先生のお話の中に、ハンターの事件がございました。友人に誤って足を撃たれた人が、足が麻痺して仕事に就けなくなったので行政機関に保険金の支給を申請したが認められなかった。それは何故かというと、関係法律の規定に合致しないからだということであった。そう答える行政機関の回答が間違っているかというと、法に基づいて判断しているわけですから、答えが間違っているわけではない。むしろ、法をまげろという要求の方がおかしいわけです。しかし、現実に困っている人がいるのを一体法は見過ごすことがあるのか、という切り口もまた大事です。
そうなりますと、この行政苦情救済というのは、法の間にありながら、解決が苦情申出人の納得のいく説明になるか、ということです。もちろん中には、苦情申出人の誤解に基づいていることもありますから、それはそれで先程の話の中にもありましたが、きちんと説明しておかなければいけません。やはり、苦情を申し出るというのは、ご本人の何か困った事情があるわけですから、それを真摯に受けとめるという姿勢、この姿勢一つにも行政苦情救済の意味は大いにあると考えます。しかし、今私が言いたかったのは、法の間でどう解決するかというときには、いろんな知恵を出して、この法には違反するかも分からないけれど、大きな法から見れば違反しないという工夫をする。そういうところに、また一つの活路があるのではないかなと思っております。
そして三番目でございますが、今日ジャコビー先生は、行政苦情救済の有効性ということをいわれましたが、この行政苦情救済というのは訴訟と違って決め所がないのです。