山本でございます。
私は、職業が弁護士でございますので、行政苦情という問題に対応するのは通常、行政訴訟という訴訟の側面だけでございました。
行政訴訟というのは、基本的には当事者対立構造をとりますので、要するに、勝つか負けるかどちらかしかあり得ないわけです。その後、問題を改善するだとか、あるいはなんらかの提言を行うという機能は直接的には持っておりません。従って、そういう訴訟を担当しておりますと、実際にはそれがどういう目的なのかだんだん当事者にも分からなくなることがあるなと感じています。
ところで、弁護士という仕事以外に、私は、福岡県の情報公開審査会委員を、現在4期目、7年務めさせていただいております。7年のプロセスの中で、福岡県で起こりました食糧費問題をめぐりまして、第一次条例改正の起草を川上先生と担当させていただきました。それが終わりました後に、それまで年に大体1、2件しかなかった異議申し立て案件が一挙に70件、80件となって参りまして、殆どそれに毎日を取られるという体験を致しました。
国の情報公開法は未だ実施されておりませんけれども、福岡県においては、情報公開条例を実施して14年になります。私は、この稀有な体験をさせていただいて、何故これほどに情報公開条例というものが盛んに利用されるのか、ということを拝見しておりました。これだけ利用されるのは、実際に情報公開を申請される方が自分の間題を自分で解決するプロセス、それに参加するという意識をお持ちになれる−実感できるシステムだからであろうと思います。ある意味では行政相談というのは、住民からいえば解決してくださいというお願いであって、それに自分が自己決定型で参加するという感覚を持てないというところが一つあるのかなと感じております。
2番目に、情報公開条例がこれほどたくさん利用されているのは、これが地方のシステムであったということがあります。地方の中で頻繁に起こる問題は、多分、市町村なり、県なりで国よりも身近に起こる問題が多くございます。従って、自分の問題として捉えられるものを自分の範囲で解決できるというのが、情報公開条例だったと思います。そういう意味で、オンブズマン制度を、沖縄県、宮城県、それから川崎市など、既に、自治体の制度としてお持ちのところがおいでになられますが、オンブズマン制度は、地方の制度として持つことが本来であって、そこから国ヘフィードバックしていくというのが正解なのではないかと思います。
そんな中で、先程も野田市長がおっしゃっておられましたが、オンブズマンという名称については、日本では誤解されている方が多いのではないかなと思います。オンブズマン制度は、先程、ジャコビー先生がお話になりましたように、そもそもは国と国民との間の調停者(機関)として、国民から苦情を受け付け、必要な調査を行い、関係行政機関に対し、是正措置を提言することにより、簡易・迅速に苦情を処理するシステムなのですが、日本におきましては、この情報公開をめぐりまして起こりました、市民運動としてのいわゆる「市民オンブズマン」と称するものの方が遥かに著名ではないでしょうか。