このように、オンブズマン活動のもつ是正的側面、また、予防的側面を考えますと、オンブズマンは、ある意味では変化をもたらす人と言い表わすこともできると思います。物事が起こる前、そしてその後に介入して、既になされてしまった過ちを是正する措置を勧告し、また、起きるかもしれない過ちについては、予防的な措置を勧告するということです。そうすることによって、行政の目に見える部分、そして目に見えない部分に対していろいろな変化を常に起こしつづける存在ともいえます。
II オンブズマンの特質
A 昨日から明日まで:オンブズマン制度の時空的発展
オンブズマン制度は、まさに一つのシステムです。いろいろな相互作用を持つ要素(権限、免責、活動など)で組み合わさっており、また、その制度が適応すべき比較的良好な環境の中で進化もしてきています。ここで、現代のオンブズマンの役割に入る前に、若干これまでの背景をお話ししたいと思います。時間的、空間的な視点から少し「オンブズマン制度」を見てみましょう。
オンブズマン制度が、現在の形を取りはじめたのは、1800年代初頭(1809年)、スウェーデンでのことです。「Justice Ombudsman」(正義の味方オンブズマン)というものが設置されました。それから約1世紀ほど後、フィンランドでこのような制度が登場しています。憲法を改正する時に同時に導入されました。その後、デンマークで1955年、ノルウェーで1962年、というようにスカンジナビアの諸国で広がっていきました。1962年にはニュージーランドでもこのような制度が設置されています。そして、この時点から世界中でオンブズマン制度が花開くようになりました。1960年代から1970年代にかけて主に英連邦諸国に、そして1970年代後半からは世界中へと広がっていったわけです。
現在、オンブズマン制度は、いろいろな呼び名が付けられております。即ち、「Ombudsman」と呼んでいるところもありますし、「people's advocate」(国民の代弁者)、「citizen's protector」(護民官)、「mediator」(調停官)、「human right commission」(人権弁護官)という呼び名で呼ばれているところもあります。これは、ほんの一例です。私は、1990年代に、これらの呼称を一つにまとめて表現する言葉として「the Ombudsmediator」という言葉を作りました。
1998年、フランスのパリで講演をする機会がありました時に、そのまとめの中で一つ申し上げたことが、「過去20年の間に、世界中のオンブズマンの窓口が47から321に増加した」ということです。この窓口の増加率は、20年間で約7倍になっています。そして、これを国の数で見れば89か国に及んでいます。この数字一つをとってみても、オンブズマン制度というのが驚くべき一つの現象だということができます。
それでは、どうしてこのような短い間に、これだけの息をのむような拡大を見せたのでしょうか。これについては、二つの要因が考えられます。一つが、政治的要因、つまり、民主主義の急速な進展と人権の台頭があります。もう一つが、私が呼ぶところの「利便上の要因」、つまり、オンブズマンの役割、また、その独特の特徴を鑑みますと、オンブズマンは国民、そして公的機関双方の期待に合致する働きができるという点です。