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オンブズマン制度というものは、常に基本的人権の尊重や公的機関による行政上の不当な行為に対して目を光らせている、そのような制度です。そういうことから、人々の中には、この制度を「政府を見張る番犬」のような制度だという人もいます。確かに現代のオンブズマン、その全体像を見てみますと、この番犬という言葉が当てはまるかもしれません。しかしながら、私は、最も相応しい形容詞だとは思いません。番犬は、吼えますし、噛み付きもします。もちろん、オンブズマンも批判をして噛み付きます。しかしながら、同時に協力もしていきます。番犬という言葉にはどこか疑念であるとか、ひそかに犯人を捜しているというニュアンスがどうしても付きまといます。ですから、私はオンブズマンを、公的機関の協力者というように形容したいと思います。というのも公的機関もオンブズマンも、結局は公共サービスの質を高めていくということに取り組んでいるからです。是非、このような視点を公的機関の方にも持っていただきたいと思うわけです。

公的機関は、オンブズマン制度を公的機関の有効性を向上するための一つの要素として捉えていただきたいということです。オンブズマンの活動の幅広さということを考えますと、オンブズマンは、政府のいろいろな活動を包括的に捉えることができます。この点をとってみても、やはり、行政の方で事前に予測できない事柄又は見過ごしてしまったような事柄をも、オンブズマンはしっかりと見て取ることができるという立場にあります。

オンブズマンと公的機関は、相対することもありますが、もう一つの側面として協力者であるという側面もあるわけです。

例えば、ケベック州のオンブズマン事務所―私が統轄している事務所でありますが、そこが出しました是正措置に対し、公的機関がどれだけフォローをしてくれたかという数字があります。1997年から1998年にかけて、正当とみなされた申し立てのうちの91%について、是正措置を公的機関が受け入れました。1998年から1999年にかけては92%、1999年から2000年にかけては93%という数字になっております。

 

B 「既になされた過ち」と「起きるかもしれない過ち」

オンブズマンは、政府の行政行為に対して目を光らせ、何か間違ったことがなされていれば、それを是正する措置を勧告しますが、私は、このタイプのオンブズマンの活動を「既になされてしまった過ち」を直すタイプの活動と呼んでいます。

これに対し、もう一つは「起きるかもしれない過ち」を未然に防ぐ活動です。オンブズマンは、「既になされてしまった過ち」について勧告する一方、政府が法律、規則等を施行したり、又は何らかの行政決定をした場合に起きるかもしれない過ちを未然に防ぐための提言も行っております。

この予防的措置を取る手順としてオンブズマンが使うのは、まず体系的な検証です。行政手続、指針、政策、意思決定プロセス、裁決、行為基準、また紛争解決のメカニズムに対しての体系的な検証です。そして、場合によっては法律の改正をも提言します。その法律というのは、保健・社会サービス、児童支援システム、スクールバスを使っての通学とその安全などについて具体的なものに広がっていきます。ということで、オンブズマンは、法案について意見をのべ、法案を修正し、規則を起草することもあります。

 

 

 

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