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以上、センターリンクの現状を概略的にみてきた。センターリンクは単なる連邦行政サービスの総合窓口事務所ではなく、法制度上も各省から独立した、理事会によって運営される機関であり、最高経営責任者(CEO)が民間的手法による経営を行う仕組みになっている。センターリンクは設置されてからまだ日が浅いが、各方面からの評価を総合すると、各省横断的なサービスによる顧客サービスの質の向上だけでなく、重複業務の排除やITの活用によってサービス効率の大幅な改善が達成されているようである。

しかしながら、センターリンクに対しては、そのサービスの対象者のほとんどが社会的弱者であることから、IT化による効率一辺倒の運営は、かえって社会的弱者をサービスから閉め出すことになるのではないかといった懸念も出されている23)。また、2000年8月に連邦政府の福祉改革検討委員会は、最終報告書(「マックルア報告(McClure Report)」)を発表し、今後は福祉受給者の資格の厳格な審査と、福祉手当の受給条件として求職活動等を強制する「相互義務」(mutual obligation)を提案した。この提案に対してセンターリンクは、政府の新しい福祉プログラムのゲートウェイになることを表明しているが、それに際しては慎重な配慮も求められる24)。例えば、いわゆる裕福な高齢者の増加に対して政府は、センターリンクがオーストラリア証券取引委員会や国税庁(Australian Tax Office)に対し株取引や不動産所得に関する納税情報を求められるようにすると発表した25)。これは一見すると合理的な方法に見えるが、税という個人情報がセンターリンクという半官半民の機関に集められ、政府の特定の政策目的のために利用されることについては、「行政責任」という面から問題はないのであろうか。むろん、センターリンクはプライバシー・ガイドラインを定めているが、2000年8月には8000名分の福祉手当受給者への封筒の表にID番号が誤って印刷されるという事件も起きており、センターリンクの機能の拡大とともに、情報管理の強化が求められよう。

 

6. 今後の展望

1980年代のホーク労働党政権による公務員制度改革と行政機構再編、1990年代前半のキーティング労働党政権による競争市場政策、そして1990年代後半からのハワード自由国民党連立政権による行政管理改善事業の展開を経て、オーストラリア政府公共部門はOECD諸国の中でも最も民間に近いシステムヘと改革されてきている。オーストラリアの連邦行政は建国以来、官僚の強いリーダーシップの下に置かれてきたが、いまや完全に政治の主導性が確立されたといってよい。それはまた労働党と自由国民党連合のあいだでの政権交代によって、政府の政策が大きく変わる時代になったことを意味している。

 

 

 

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