だがそれぞれの証言内容を見てみると、PBOを支持する立場からの証言に比べて、支持しない証言がより説得力を持っているようであることは興味深い。その意味では、この公聴会は、米国でPBO化がなかなか進まない理由を考えさせる公聴会であり、前節で検討したロバーツの議論を補強する内容であるといえる。
5. 結論
最後に、本章の検討から明らかになったことをまとめておこう。
第1に、イギリスのエージェンシー改革に相当する米国の改革は、業績重視組織(PBOs)改革であり、PBOs改革は、クリントン政権の国家業績審査(NPR)改革の一環として行われた。クリントン行革であるNPR改革は、政府再生(Reinventing Government)運動として理解されており、新公共管理法(NPM)とは一般には呼ばれていない。しかも最近の研究によれば、NPR改革の評価は全面的に肯定的であるわけではない。NPRの一環として行われたPBOs改革の評価についても、功罪相半ばしている。
第2に、タルボットたちの枠組みによれば、断片化(企画・立案部門と実施部門の分離)および(エージェンシートップと本省大臣との)業績契約という、エージェンシー化の2つの本質的特徴をPBOsは備えている。このPBOsは、NPR改革途中の1996年3月に、当時のゴア副大統領によって提案され、その後のブレアハウスペーパーズには、9つのPBO化候補組織が提示され、1998年度予算教書に組み込まれた。しかしながら、現在までに実現したPBOsは、教育省の学生資金援助施策局(OSFAP)および商務省の合衆国特許・商標局(USPTO)の2つだけである。
第3に、米国でPBOs改革がなかなか実現しない理由は、制度的かつ政治的なものである。すなわち、イギリスのエージェンシー化においては、立法化は不要で内閣の裁量だけで可能だが、米国のPBO化においては、PBOごとに個別立法化が必要である。つまり、それだけ議会の影響力が強いのである。議会の人事上および予算上の監督権限を侵食するPBOs提案がクリントン政権側から行われたことは、共和党が支配していた議会の抵抗を基本的に呼び込んでしまったのである。さらに、PBOトップに対する規制緩和を進めたくない本省や調整官庁、労働条件悪化に警戒的な労働組合、改革に懐疑的で保守的な関連業界団体や学界等、PBOs改革に抵抗し、その実現を妨げるさまざまなアクターが存在したといえる。