これらの契約を交渉し強制するプロセスにおいては、国会が相対的に弱い点が大きな特徴である。国会が、年次業績目標をめぐる交渉に介入したり、合意された目標からエージェンシートップの注意をそらしたりするためにその影響力を行使したりするような危険はほとんどない。本省とエージェンシーが優先順位について交渉する際、議会がより大きな影響力をもつ米国では、状況はまったく明確に異なっている。
この違いは次の2つの理由による。第1に、議会は、年間業績契約の内容をめぐる交渉を複雑化し引き延ばしてしまうためである。実際、とくにPBOの目標が議論を呼ぶようなものである場合には、議会を排除し続けることは困難であることが明らかになってきている。第2に、議会は、COOの注意を保持させる手段としての業績契約の力を弱めてしまうためである。契約と、契約に結びつけられたボーナスには、COOが明記された目標に焦点を当てるようなインセンティブを提供することが期待されている。しかしながら議会は、それ自身の目標と結びついた一連のインセンティブを別に課す能力を備えている。つまり、議会は、PBOの使命(mission)を変えてしまう法律を通過させたり、業績契約では優先順位の与えられていなかった主題についての監視公聴会(oversight hearings)を開いたりすることができるのである。
COOと本省とが業績契約を結ぶという提案について、議会は、アンビバレントな態度をすでに示している。たとえばクリントン政権によってPBO候補とされた特許・商標局のユーザーグループ(米国知的所有権法協会(American Intellectual Propefty Law Association))は、PBO化によって商務省が過大な影響力をもつことになるという理由で反対したのだが、下院の知的所有権小委員会(House subcommittee on intellectual property)は、彼らの議論に同意したのである35)。同様に、合衆国造幣局を再編して、そのトップと財務省とで年次業績契約を結ぶという1997年財務省歳出法案の条項は、上院のマークアップ期間中に削除された。その条項を削除した決定は、その条項が議会の造幣局に対する関係に影響することへの関心によって、明らかに動機づけられていた。NPRは、改革候補の範囲を狭めることによって、権限を侵されているという議会の関心を予測し対応しようとした。このことが、労働省(Department of Labor)の労働安全衛生局(Occupational Safety and Health Administration: OSHA)をPBO化すべきであるとするOSHA前局長の示唆をクリントン政権が採り上げなかった理由である。
(b) 資金の安定性
業績契約システムの成功は、本省と調整官庁とが、契約がカバーする期間中予算にコミットする能力に大部分依存している。議院内閣制(parliamentary systems)における政府は、通常、予算にコミットする能力をもっている。