第2章 米国における業績重視組織(PBOs)の動向
1. クリントン政権の行政改革
(1) 政府再生(Reinventing Government)
本章の目的は、イギリスのエージェンシーにほぼ対応すると考えられる、米国の業績重視組織(Performance-based Organizations: PBOs)に関する現在までの動向を明らかにすることである1)。その際とくに問題にしたいのは、イギリスではエージェンシー化がかなり進展しているのに、米国ではPBO化が進展していないのはなぜなのか、という問題である。この問題については、英米の比較検討を鋭く行っているクィーンズ大学のアラスデアー・ロバーツ(Alasdair Roberts)の論文を紹介する3で詳しく考察することにしたい2)。そこで、1では、PBOの背景となったクリントン政権の行政改革について、とくに国家業績審査または政府再生のための国家的パートナーシップ(National Performance Review or National Partnership for Reinventing Government: NPR or REGO)との関係について簡単に整理しておこう。2では、ゴア副大統領によるPBOの提案とPBO化の現状についてまとめておく。4では、1997年7月8日に行われた下院政府改革監視委員会(House Committee on Government Reform and Oversight)の公聴会「業績重視組織の監視」(Oversight of Performance-based Organizations)を簡単に紹介しておこう。
PBO改革を含むクリントン行革は、基本的にはNPM改革と同じ方向性をもっている3)。だが興味深いことに、米国ではクリントン行革をNPMと呼ぶことは一般的ではなく、むしろ政府再生(reinventing government)またはその運動と呼ぶことが多い。その理由については後で検討するが、政府再生という表現は、ベストセラーとなったデビッド・オズボーン(David Osborne)、テッド・ゲーブラー(Ted Gaebler)による本のタイトル」Reinventing Goverment(邦訳は『行政革命』)から来ている4(。この本はクリントン行革のバイブルとされ、また、彼らはクリントン行革のブレーンとして活躍した。そして、クリントン行革は、具体的にはNPRと呼ばれた。