そこで第二に、アカウンタビリティ問題を取り上げ、NPM改革の代表的事例としてのエージェンシー設立との関連で、どのような争点が提起されているかを二点にしぼって指摘しておきたい。
(a) 一つの方向は応答性(responsiveness)の強調である。しかし、市民憲章のような革新的提案によって受け入れられている応答的サービス提案は、政治的責任を補完するがそれにとって代わるものではない。なぜならば、消費者レベルだけでは、政府機関の責任を問うことは不十分だからである。政治的レベルの市民を基礎としたさまざまな方策が模索される必要がある。
(b) 第2に、エージェンシー化は、アカウンタビリティ「ギャッブ」を悪化させた。政府は大臣責任の憲政上の習律を維持するという立場を守り、新しい責任確保のしくみを積極的に導入しようとはしなかった。メージャー政権の公務員制担当大臣のW.ワルダグレイブは、委任されるレスポンシビリティと大臣に留保されるアカウンタビリティを区別することによって、政府が憲政上の改革にまで踏み切らない態度を正当化しようとした24)。
しかし、このような仕組みのもとでは、政策がうまくいっているときは大臣の手柄にし、うまくいっていないときエージェンシーの長を非難することになりやすい。政策と運営の間には、明確な線は存在しないし、大臣が非難を回避することを助けることによって議会への大臣責任は弱められる。
一方において、エージェンシーの設立によってアカウンタビリティ(とくに透明性)が増大したという主張がなされているが、近年、イギリスの政府の政治的責任は、かなりその水準が低下したと批判されている。このような状況に対して、下院の公共サービス特別委員会は議会と公務員およびエージェンシーの長の間の責任(accountabiIity)のより直接的なラインを確立することを要求した25)。
しかし保守党政府は、その提案を拒否してきた。労働党政権は野党時代には、これに批判的であったが、後述のようにブレア政権もアカウンタビリティに関する憲政上の改革にまでは踏み込んでいないように思われる。