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その限りで、内閣官房長官と大蔵省の間には共通の基盤があり、改革は支出の正当な統制とVFMの両方を達成できるように考案されなければならないという考え方において一致していた。この線に沿って首相や内閣官房長官は最終決着をはかった。

第二にイブス報告の考え方の中には、エージェンシーの長は給与、人事に大きな管理上の自由をもつべきであり、所管大臣のみならず議会に対しても直接責任を問われるべきであるという勧告が含まれていたが、サッチャー首相はこの考え方をくつがえしたと言われている13)。サッチャー首相をはじめその後継者メージャー首相も、大臣の個人責任という伝統的な習律を堅持する、と繰り返し述べてきたが、政府に批判的なある論者は、大臣責任の伝統的習律を堅持して、議会への公務員の直接責任の導入を考えなかった政府の方針をネクスト・ステップス・プログラムの核心にある宿命的欠陥と見なしている、またアカウンタビリティに関する現行の憲政上のルールは「ネクスト・ステップスの管理主義哲学と両立しない」14)と見なしている。

このようなアカウンタビリティをめぐるあいまいさ、ないし矛盾はエージェンシーが国民の関心の周辺部にある機能を果たしているところでは、あまり問題にならないが、後述のように刑務所庁(Prison service agency)とか児童扶養庁(Child support agency)のような政治的対立をはらんだ分野では大きな争いを引き起こすことになった。

ところでイギリスにおいても1997年以前の行政改革の歴史は、我が国の例にも見られるように、きわめて不十分な成果を示すものに過ぎなかった。したがって、ネクスト・ステップス・プログラムの実施に見られるような大規模な改革の成否は、まずサッチャー首相による改革への強力な政治的支持と彼女を継いだメージャー首相による改革への同様に高い政治的関心にかかっていた。さらにサッチャー首相の強力な支援のもとに、民間から公務員への転職という経歴を持つ、大蔵省次官代理P.ケンプが公務員制担当大臣省のネクスト・ステップス・チームの長(第2次事務次官級)として精力的にNSAsの設立に取り組んだことも特筆すべきであろう。また官房長官兼内国公務員の長(Head of the UK Home Civil Service)であるサー・R・バトラーを含む内閣府の何人かのメンバーもこの改革の主要なアクターであった。

また当初、イブス報告には難色を示していた大蔵省もエージェンシーの設立やその運営については、財務統制の面から大きな影響力を行使した。

ネクスト・ステップス・プログラムのもとで、中央省庁は、その活動を検討し、エージェンシー候補を提案するように勧められた。ネクスト・ステップス室と各省は、大蔵省とともに、当該活動が民営化されるべきか、あるいは全面的に廃止されるべきかを審査するために会合した。これらの質問に対する回答が消極的であった場合、エージェンシー形態が適当かどうかの決定がなされる(これは事前選択prior optionsと呼ばれている)。

 

 

 

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