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(3) 行政改革と組織の法定主義の再検討

戦後日本の行政組織が、徹底した法定主義の原則を採用していることは周知のとおりである。戦前の行政組織が天皇の官制大権の建て前の下で、政府および軍部などによる恣意的な設置再編を許していたことに対する反省から、戦後の仕組みでは、中央行政組織の種類、名称、内部組織、業務などのすべてが、国会で審議・決定される法律により規定されることとなってきた。無論、法定主義についてはメリット・デメリットの両面があり、ここで一概にすべての是非を論ずることはできないし、もとより「法律による行政」の意義を些かも軽んずるつもりもない。しかしながら、戦後半世紀を経るなかで、厳格な法定主義の原則も適用が、その本来の目的よりもむしろ、往々にして行政組織改革の柔軟性や迅速性および実現可能性自体をも阻害する要因となってきたことは否定できない。今回の省庁再編においても、一説に約1300本の法律改正が必要であったと言われ、内閣法制局のみならず各省でも膨大な時間とエネルギーがそこに投入された。それだけの時間とエネルギーを投入するに値する制度改革であったか否かの議論はおくとしても、独立行政法人制度の導入においても、こうした法定主義の原則が、他の行政組織の場合と同様に適用されることにより、以下のような問題点が生じてきていることは、すでに多くの論者が指摘するところである16)

すなわち第1に、通則法の詳細な規定のゆえに独立行政法人の組織と運営に、過度の画一性を強いていることである。第2に、独立法人格をもつ独立行政法人を他の行政組織と同様に個別の設置法によって設立せざるを得なかったがゆえに、今後実施庁など他の行政機関が独立行政法人化する道が塞がれる可能性のあること、また第3に、特定独立行政法人が独立行政法人へ移行する場合も個々に法令の改正を必要とするため、その柔軟で円滑な移行の可能性が妨げられること、である。そして第4に、法制度の改正に重点が置かれることにより、法令の制定や改正がおこなわれた時点で改革が完了してしまったという錯覚を当事者のみならず国民一般の間にも浸透させる傾向が見られることである。独立行政法人制度は、未だ設計図がひかれそれに基づく制度構築が行われている途上であり、今後法制度面の制度設計では予測できなかった、新たな問題が生じる可能性は十分に考えられる。そうした問題が発生する度に、すべて通則法や各独立行政法人設置法の改正の手続きをもって対応しなければならないとすれば、それこそ主務省の業務の垂直的減量化を阻害する要因ではないだろうか。

行革会議最終報告は、その前文のなかで行政組織編成のあり方についても「常に時代の要請に機動的かつ弾力的に応え得る、柔軟な行政組織」を強調し「政策内容の評価を行うがごとく、行政組織についても不断の見直しを行い得るような仕組みを組み込むことが必要不可欠であろう」と述べている。行政組織の厳格な法定主義の再検討の必要性は、ひとり独立行政法人のみならず、21世紀の日本の行政組織全体の問題として検討されるべき課題であろう。

(辻隆夫)

 

 

 

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