3. 独立行政法人の人事をめぐる諸論点
上記の総論的な課題を踏まえ、以下では独立行政法人の人事の面で、現行公務員制度との接点に関わるいくつかの各論的課題について、主たる論点を摘出しておきたい。
(1) 任用について
独立行政法人の発足にあたって、その職員の任用に関する規定は、個々の設置法の付則でそれぞれ定められている。その内容は「職員の引継ぎ等」として、以下に例示するように特定・非特定を問わず、ほとんどすべての独立行政法人に共通している。
「科学博物館の成立の際現に文部科学省の機関で政令で定めるものの職員である者は、別に辞令を発せられない限り、科学博物館の成立の日において、科学博物館の相当の職員となるものとする」(独立行政法人国立科学博物館法付則第2条)
「日本貿易保険の成立の際現に経済産業省の部局又は機関で政令で定めるものの職員である者は、経済産業大臣が指名する者を除き、別に辞令を発せられない限り、日本貿易保険の成立の日において、日本貿易保険の職員となるものとする」(貿易保険法の一部を改正する法律付則第2条)
新組織への移行にあたり、旧組織に属する職員の身分を一度失わせしめたうえで改めて辞令を発して採用するという形式が、かつて国鉄の分割民営化による現JR各社および清算事業団への移行に伴って、再雇用をめぐる深刻な事態を招いたことに対する反省から、このような任用手続きに関する規定が生まれたと考えられる。現行職員の身分保障をめぐる無用の混乱を避ける意味でも、また新組織への移行を円滑に進めるためにも、こうした任用手続きが必要であることは当然と言えよう。けれども、今後の新規採用に関しては、改めて何らかの手立てを講ずる必要が生じてくることが予想されよう。
特に採用試験制度においては、当初から研究職希望或いは特定独立行政法人勤務を希望する受験者に対応するために、試験区分の変更、特別試験の多様化等も含めて検討する余地がある。特定独立行政法人の職員が国家公務員である以上、公務員試験の対象となるのは当然であり、当面の試験研究機関に勤務する研究職については、従来の面接選考型で対応することが予想される。しかし、それ以外の機関の職員および事務系については、別途に何らかの試験制度の実施等が検討されてしかるべきである。その場合、従来の人事院が実施する一般職に関するI種、II種、III種試験の区分に新たな区分を設けて対応するか、あるいは特別試験制度を創設するのか、それは特定独立行政法人全体を包括する試験とするか、個々の独立行政法人が実施主体となって内容、定員、時期などについて個別の判断に委ねる形態とするかなど、課題は山積している。