そもそも「国の利害に重大な関係があり、かつ、災害の発生その他特別の事情により急施を要する」業務とは、行革会議の最終報告における「独立行政法人の対象業務の考え方」のなかで除外されている筈の「国が自ら主体となって直接実施しなければならない事務・事業」で例示される「災害等国の重大な危機管理に直結」する領域の業務である。こうした領域における、主務大臣の判断や要求に伴う責任の範囲については、なお多分に検討の余地が残るであろう。
(3) 独立行政法人職員の身分をめぐる争点と公務員定数削減について
周知のとおり、独立行政法人導入において、制度設計の段階から具体的な対象機関の選定の過程に至るまでの間に、マスメディア等からの批判のみならず、行革関係者の間からも最も強い疑問や懸念が示されたのが、職員の身分問題と公務員数削減に関わる問題であった。こうした顛末をめぐる政治過程については、すでに第一部第1章において詳細に論じられたであろうが、ここではイギリスのエージェンシー導入の経緯とは明らかに異なる展開が見られ、しかもそれが行革本来の趣旨を離れた政治的決着に帰したことをあらためて確認するとともに独立行政法人制度導入と公務員制度改革との接点を検討するという本章の目的に照らして、前章の記述とやや重複する部分も含め、簡単に以下の諸点を確認しておきたい。
第1に、すでに触れたように、制度導入にあたっての行革会議および政府レベルでの議論は、エージェンシー制をモデルとすることから始まった。97年5月の行革会議中間整理では、エージェンシーについて「職員は公務員、いずれは任期制、契約ベースでの採用等を検討」と記され、同月21日の武藤嘉文総務庁長官のイギリス視察報告をめぐる質疑応答でも「国家公務員であるがゆえに仕事に対するモラルが維持されている面もあるのではないか」との意見が示され、ここまでの段階ではエージェンシーに倣い、職員の身分を公務員とすることが漠然と想定されていたと考えられる。けれども、その直後の同月28日の第15回会議の議事録によれば、独立行政法人の職員の身分についての質疑のなかで、国とは別の法人格をもつことに伴って「公務員でなくなる一方、労働三権も保障されることになるのではないか」との意見が出され、職員の身分問題が以後の検討課題として浮上してくることになる。これ以降8月の集中審議までの間に、エージェンシーとの性格との相違がかなり明確に意識され始め、行政機能の二分化(企画立案機能と実施機能)による運営の効率化よりも、行政機能の垂直的減量の手段としての組織の分離という側面に重点が置かれてゆくことになる。