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しかしながら、従来の政治的慣例で明らかなように、頻繁な内閣改造による閣僚人事の交替が繰り返される現状のもとで、3年以上5年以内というスパンを前提とする中期目標および中期計画に関する大臣責任をどこまで確保できるかは、極めて覚束ないと言えよう。仮住居の大臣による権限が名目にとどまり、実質的には本省の官房部局によるお膳立てのうえに、すべてが策定、運営される状況が生まれるのであれば、こうした新たな組織形態に対応する大臣責任の形骸化は、不可避となろう。独立行政法人の効率的・弾力的運営のための自主性・自律性の確保と、民主的統制のための議会に対する大臣の説明責任の領域とのバランスをどのようにはかるかという課題は、制度発足の後も多くの試行錯誤のなかで、早急な検討を要すると思われる。

上記の論点との関連で、業務内容そのものに対する主務大臣の権限についても、各独立行政法人の設置法規定のなかに微妙な「濃淡」の差が見いだされる。中期目標の指示とこれに基づく中期計画の策定は、主務大臣と独立行政法人との間の業務内容に関する一種の「契約」関係を構成するものである。一度こうした関係が成立すれば、業務の日常的運営については、効率性や質の向上をはかるために、できるかぎり独立行政法人の自律的な裁量に委ねられるのが、この制度の本来的目的である。しかしながら、いくつかの独立行政法人の設置法には、次のような文言がある。

「国土交通大臣は、国の利害に重大な関係があり、かつ、災害の発生その他特別の事情により急施を要すると認められる場合においては、研究所に対し、第11条の第1号又は第2号の業務のうち必要な業務を実施すべきことを指示することができる」(独立行政法人土木研究所法第14条「国土交通大臣の指示」。なお、同様の文言は独立行政法人北海道土木研究所法第13条、独立行政法人建築研究所法第13条にも見られる)。

「厚生労働大臣は、公衆衛生上重大な危害が生じ、又は生じるおそれがある緊急の事態に対処するため必要があると認めるときは、研究所に対し、第10条に規定する業務のうち必要な調査及び研究又は試験の実施を求めることができる。

2.研究所は、厚生労働大臣から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がない限り、その求めに応じなければならない。」(国立健康・栄養研究所法第12条「緊急の必要がある場合の厚生労働大臣の要求」。なお、これに類似する文言は独立行政法人産業安全研究所法第13条、および独立行政法人産業医学総合研究所法第13条にも、それぞれ規定されている)。

こうした規定が、通則法に定められている3年以上5年以下の期間で大臣の指示と認可のもとに策定される、中期計画および中期目標に優先することを意味するのであれば、それぞれの独立行政法人の業務内容とその優先順位が、大臣の意向によってきわめて大きな制約を受けることになる。

 

 

 

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