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独立行政法人の少なからざる意義がこのような点にあるとすれば、この制度の導入は当然ながら、既存の特殊法人に対する改革とリンクする方向性をもつ。言わば、印刷・造幣や国立病院・療養所などを含む60余機関の独立行政法人化が第一幕であるとすれば、引き続く第二幕に国立大学をめぐる問題があり、さらに第三幕として特殊法人の整理再編の舞台が用意されねばならない。すでに政府レベル、与党レベルの特殊法人改革プログラムがこうした方向で動き始めている以上、その幕間に多大な時間を要することは、許されないであろう8)。イギリスのエージェンシーとは異なり、独立行政法人を国家行政組織の枠外に置いたことに、あえて積極的意味を見いだすとすれば、この点にこそ求められるべきだと考えられるからである。

 

(2) 独立行政法人の業務と主務大臣の責任について

第2の論点は、独立行政法人の導入とこれを所轄する主務大臣の行政責任のあり方をめぐる部分である。

いまさら指摘するまでもなく、90年代の行革論においては、行政府に対するいわゆる政治のリーダーシップの強化が重要な課題とされてきた。独立行政法人の運営に対する主務大臣の権限と責任の領域をどのように制度化するか、という論点もまた、大臣の指導力の強化をめぐる議論に、相当重要な比重を占めることになるであろう。しかしながら、これまでのところ、政治の指導力の強化とそれに伴う大臣責任をめぐる議論は、独立行政法人とは別次元(内閣府の設置、副大臣および大臣政務官の導入など)での議論の対象とされてきた。行革会議における独立行政法人の議論も、当初から行政の機能の垂直的減量化による組織の分離の面が強調されていた。まして、企画立案機能と実施機能の分離を前提とする本省と独立行政法人との組織的な分離が、これを所轄する主務大臣の行政責任のありかたに対して、どのような影響を及ぼすかは、ほとんど議論の対象としてされてこなかったといっても過言ではない。

イギリスのエージェンシー制をめぐって、特に刑務所行政に関する内務大臣とエージェンシーの長との間の責任問題に端的に示されたように、この部分こそ最も深刻かつ重大な議論を呼んでいることは、我が国でも広く知られている。それにも関わらず、日本の独立行政法人化にあたって、制度設計と具体的な機関選定の過程で、当事者も含めてどのような議論が交わされたのかは、必ずしも明らかではない。イギリスのエージェンシーが国家行政組織の内部に存在しそれゆえに大臣責任の直接及ぶ範囲内に位置するのに対し、独立行政法人は独立した法人格をもつ別建ての組織であり、したがって大臣責任の及ぶ範囲をイギリスのそれと同次元で論じることができないのは当然である。

 

 

 

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