しかしながら、こうした独立行政法人といわゆる特殊法人との関係について田中教授の記述は必ずしも明確ではない。すなわち、一方では行政管理庁(当時)の審査対象となる狭義の特殊法人について「必ずしも行政主体性を認められたものとはいえない」として「特殊法人の観念と独立行政法人の観念とは、別個の観点に立つものとして区別されなければならぬ」としているが、他方では「政府関係独立行政法人としてみるべきものの諸形態」として、公社、公団、事業団、公庫、銀行(この他地方関係独立行政法人の例が挙げられているがここでは省略する)などが列挙され、いわゆる広義の特殊法人に含まれる諸組織を網羅する、極めて幅広い概念が提示されている5)。戦後日本の行政法学の泰斗である同教授にしても、こうした諸点については「何を独立行政法人のメルクマールとして、その範囲を画すべきか(中略)きわめてむずかしい問題である」あるいは「このような理解の仕方については恐らく異論の余地もあるであろうが」といった記述がなされており、厳密な概念定義と現実の組織への適用との間の矛盾が生ぜざるをえないことを伺い知ることができる6)。
行革会議で当初「エージェンシー」と仮称されていたものが、97年5月末の時点で「独立行政法人」の名称の採用が決定された段階で、こうした問題点がどこまでクリアーされたのかは明らかではない。もとより、実践的かつ具体的な改革の青写真を作成することを目的とした場に、概念の論理的厳密さを求めることができないことは当然である。しかしそれがために、97年8月18日付けの藤田宙靖委員の意見書「垂直的減量(アウトソーシング)を巡る問題点」および行革会議最終報告第IV章に述べられた記述内容では、組織類型の整理について、必ずしも明確な論理構成は見られず、むしろ実践的な改革処方の提示に重点が置かれている。念のため、以下やや長文にわたるがこれらの記述を、それぞれ引用しておきたい。
「行政法学上の用語を用いるならば、それは『国』『地方公共団体』以外の『行政主体』の一種なのである。(中略)この限りでは、従来の『公団』『公庫』等の特殊法人と変わるところはないのであって、そういった意味では、独立行政法人も一種の特殊法人である、と言っても、理論的には差し支えない。(中略)
独立行政法人は、これら従来の特殊法人に存在した一面でのメリットを更に拡大し、他面でデメリットを修正したものである。従って、従来の特殊法人は、原則的に全て、一定期間内に独立行政法人化するか、或いは民営化されるべきものである。独立行政法人は特殊法人に屋上屋を重ねるものであるといった類の批判は、こういった事実を全く理解しないものと言わざるをえない」。