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したがって第4に、独立行政法人については、導入まで3か月弱の時点でも、内容および規模の両面にわたり今なお不確定要素が多く、個々の事例についての意義を正当に評価することおよび実態を予想することが未だ困難であるとともに、独立行政法人制度全体に対する総括的な評価を明示することも、きわめて難しい情況にある。

以上の諸問題が、独立行政法人制度全体を通じる本質的な問題の所在を示唆するとともに、本章の記述内容に対する制約要件を意味していることは言うまでもない。独立行政法人通則法(以下通則法と略す)および各独立行政法人の設置法が制定された現時点は、制度設計が一応の完了をみた段階であり、これに基づく制度の建築とその本来的目的のための使用が開始される過程で、なお多くの課題が生じるであろうことは想像に難くない。したがって、現時点での本章の内容は、予定されている独立行政法人、とりわけ本章が主題として扱う特定独立行政法人に関して、言わば設計図の内容に見られる問題点を摘出し、今後の公務員制度のあり方との関連で予測される課題を明らかにする作業が中心となる。

 

2. エージェンシーモデルの踏襲と乖離

独立行政法人が、イギリスのサッチャー政権のもとでのいわゆるイブス報告を契機として、1988年から始められたエージェンシー化をモデルとすることについては、異論の余地はない。1996年春に水野清氏や柳沢伯夫氏等による訪欧で、イギリスのエージェンシー制度が着目され、同年秋の総選挙で自由民主党の公約の一つとして、この制度の導入が明確に掲げられたことは周知のとおりである。その直後に発足した行革会議における独立行政法人の制度設計をめぐる議論も、多分にイギリスの実情を叩き台として展開された。

言うまでもなく、イギリスにおけるエージェンシーが、中央政府行政機構の組織改革と並行して、公務員制度改革をも重要な目的として内包してきたことは、広く指摘されている。「公務員制度は、単一の制度として管理するにはあまりにも巨大過ぎ、また複雑すぎる」と指摘したイブス報告は、1960年代におけるフルトン報告以後の公務員制度改革の挫折の反省に立ち、「統合された公務員制度(unified civil service)」の限界の克服を目的としたがゆえに、公務員の果たすべき「公務」の内容を「政策の企画・立案および助言機能」と「執行管理機能」に二分することによって「公務」の概念の再定義を迫り、それによって公務員制度全体の新たな変化の必要性を促す契機となってきたと評価できよう。そして、こうした観点の背後に、行政の機能そのものを時代の変化と国民のニーズに対応する新たな視点から問いなおす、いわゆる「新公共管理(NPM)」の大きな流れが存在してきたことは、いまさら言うまでもない1)

 

 

 

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