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その後、行政改革会議は、課題抽出のための各省庁ヒアリングに入ったが、その過程は、独立行政法人化の「実行可能」なものの抽出に充てられたといってもよい。厚生族議員として知られる橋本総理(当時)は、96年12月の地方分権推進委員会第一次勧告の際に「実行可能」なものを望むと発言し、既得権を主張する各省庁は、「実行可能とは、各省庁が合意したもののこと」と理解し、その後の地方自治体への権限移譲が進まない結果を招いたといわれているが、独立行政法人化の抽出も「実行可能」なものである以上、抽出は各省庁の判断に委ねられたのであった。

その意味で、貿易保険は、通産省がかねがね制度執行の最たるものと考えており、新たな省庁横断的企画官庁としての位置付けを中央省庁再編に際して獲得するためには、この際、行政改革に協力的であることをアピールするため、貿易保険の民営化・独立機関化すら考慮し、独立行政法人が選択肢として示されたとき、いち早くその選択肢に乗ったものということができる。

とはいえ、貿易保険の独立行政法人化について、唯々諾々と受け入れたのではない。『行政改革会議提出通産省資料』(平成9年6月13日付)では、独立行政法人について、「国家公務員の身分を与えるのか」と採用、人事、厚生、服務、身分保障、労働基本権の各項目に関して、また、「運営の自由度をどこまで増大させることができるのか」、「責任体系をどうするのか」、「執行機関にどこまで企画機能を認めるのか」等に関し、他省庁と横並びで「基本的共通事項」について行政改革会議の考えを詰めるよう要請している。この背景には、表1中の97年10月8日の行政改革会議第3回企画・制度問題及び機構問題合同小委員会議事録に示されているように、行政改革会議委員のなかには、特許庁の独立行政法人化を求める意見のあったことを見逃すわけにはいかない。

すなわち、前述の『通産省資料』(平成9年6月13日付)では、「個別の行政分野の特性」に配慮した論点の整理として、

「i 排他的権利の付与、準司法的な紛争解決、監督・命令などを伴うような権力性の高い分野はどう考えられるのか。

ii 個々の案件処理に政策判断や高度な専門的判断を要するような業務はどう考えられるのか。

iii 外国政府との交渉が必要な業務、外交上の秘密に係る情報の利用が必要な業務、国際的な調整が必要な業務などはどう考えられるのか。

iv 政策の実施と一体的に重要な企画立案が行われている分野についてはどう考えられるのか」

と4点を挙げ、その各々に具体例を示しているが、貿易保険については、iiiの例として外交上の秘密情報の活用が挙げられているのに止まっている一方、特許庁については、上記4点すべてについて例が示され、貿易保険は、その一点が解決できれば独立行政法人も可能だが、特許庁は現状の外局がふさわしいことを暗に主張しているのである。

 

 

 

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