第2章 独立行政法人の事例研究 ―非公務員型独立行政法人の行方―
1. 独立行政法人の事例研究の意義と限界
(1) 独立行政法人の事例研究の意義
(a) 「新しい行政制度」の成立過程の研究事例として
すでに前章で詳述しているように、独立行政法人制度設立の狙いは、政策と執行の分離という理念の具体化に他ならなかった。
すなわち、1996年11月に発足した行政改革会議では、96年5月の橋本内閣の行政改革方針が示した、政策立案部門と制度執行部門の分離の方法について、中央省庁の再編改革に際しての具体的な検討が進められた。その具体的な成果が、一つは今次行政改革の目玉たる内閣府の設置に繋がる内閣機能の強化であり、もう一つが、新たな行政制度づくりともいえる独立行政法人制度であった。
内閣府の設置は、各省庁が既得権を確保しようというなかで紆余曲折をみせるが、内閣機能の強化という錦の御旗の下で、その総合調整機能を権限、手続きの面で担保するというこれまでの行政官僚制の枠内での手順の、まだみえる作業であった。それに比べ、独立行政法人制度の設計は、制度執行の範囲の確定から始まって、国との関係での、そもそも新たな法人制度のあり方からはじまって、人事、財務、経営計画、評価等のあり方等にいたるまで、検討は多岐に及ばざるを得ず、まさに新たな行政制度づくりといっても過言ではなかった。
本章は、こうした新たな行政制度が作られる過程を事例を通じて明らかにしようとするものである。
(b) 公務員制度見直しの視点
様々になされるべき独立行政法人制度の評価は、今のところ、国家公務員数の削減のための道具としての評価に偏しているようにみえる。それは、独立行政法人制度が、当初の政策と執行の分離という理念から、独立行政法人制度設計の過程で経た、いくつかの選挙における行政改革=中央省庁のスリム化という各党共通の公約のもとで、国家公務員数の削減のための道具と見なされるようになったからであるといえよう。