これは実現可能性の点からやむを得ないプロセスであったともいえるが、独立行政法人の制度設計を、そもそもの立案機能と執行機能の分離という趣旨から遠ざけてしまうことにもなった。日本版エージェンシーは、行政組織内で執行機能を担う機関としてではなく、「公権力の行使」を対象外としたうえでのアウトソーシングの一類型として位置付けられたのである。制度の生みの親ともいえる藤田主査は独立行政法人をして「改良型の特殊法人」102)と評している。
ともあれ、独立行政法人という「改良型の特殊法人」を創設したことが日本の行政改革の進展にどのように貢献するかは、今後の独立行政法人の運営等にかかっているといえる。独立行政法人が特殊法人のマイナスの部分を受け継いで、官民の境界線上にまたがる広大なグレーゾーンをさらに複雑化させるだけに終る可能性もある。また、独立行政法人が「改良型」としての特性を発揮して、行政組織内に留まっていた時代よりも効率性や透明性を向上させていく可能性もある。さらには、特殊法人をはじめとする既存のグレーゾーンが「改良型」の特性を発揮する独立行政法人として再編成され、グレーゾーンの領域に効率性と透明性が波及していく可能性もある。はたしてどのシナリオをたどることになるのか、今後の展開を見守りたい。
(石上泰州)
<注>
1) イギリスのエージェンシー制度については日本でも早い時期から紹介されている。もっとも早くまとまった形で紹介されたものとしては、総務庁長官官房企画課『英国における行政管理の改善に関する調査報告書』行政管理研究センター、1989年12月がある。90年代初期のものとしては他に、山谷清志「行政管理におけるサッチャーの「革命」−『エージェンシー』と業績評価−」『国学院大学紀要』第28巻、1990年3月、君村昌「サッチャー政権下におけるイギリス公務員制度の変容と課題」『同志社法学』第39巻5・6号、1991年、同『サッチャーの改革』行政管理研究センター、1990年、宇都宮深志編『サッチャー改革の理念と実践』三嶺書房、1990年がある。実務家による紹介としては、宮川萬里夫「英国における行政管理の動向とその課題」『季刊行政管理研究』第55号、1991年、同「英国における行政の効率化−効率室及びエージェンシー化の動きを中心として−」『季刊行政管理研究』第57号、1992年。その後90年代の半ば以降になると、エージェンシーについて多数の論文が発表されている。主要な著書として、君村昌『現代の行政改革とエージェンシー−英国におけるエージェンシーの現状と課題』行政管理研究センター、1998年。また、行政改革会議内で特に参照されたとみられる文献として、田辺国昭「英国における『ネクスト・ステップス』の展開」総務庁官房企画課『行政のボーダレス化と機能的再構築に関する調査研究報告書』行政管理研究センター、1997年。