事務局では5月28日の会議に向けてエージェンシー制度の骨格と対象業務、機関等を詰める作業を行い、15日には水野事務局長と八木事務局次長らが橋本総理への事前説明におもむいた(このころから「独立行政法人」という呼称が用いられるようになる)。そこでの内容は、かなり積極的な独立行政法人化を想定したものであり、独立行政法人化の対象業務として造幣・印刷、登記・供託、国立学校、国立病院、社会保険庁、食糧庁、特許庁、車検等の登録検査、航空・海上管制、気象庁、職業安定所、雇用保険・労災保険、国営公園管理、国土地理院など56部門を独立行政法人化の対象としていた31)。その説明を受けた橋本総理は、「その方法で(執行部門を切り離さ)なければ、(本丸の)省庁の統廃合はできないな」と述べたと報道されており32)、制度導入に意欲的な姿勢をみせていた。
同時に、独立行政法人化にともなう職員身分のあり方についても、15日の総理説明の段階では、「新たな国家公務員制度」を導入する構想を明記し、独立行政法人の職員には労働基本権を保障する一方で身分保障制度を見直し、「みなし公務員」とする方針が打ち出されていた33)。独立行政法人化を進めるにおいては、直接の影響を被る官公労との調整が最大の焦点となるのはおのずから明らかであった。連合が4月早々に反対姿勢を示したように、エージェンシー制度の導入が人員整理、さらには民営化へとつながる危険性があるとして、労組側が危機感をつのらせるのも当然であった。連合だけでなく、全労連傘下で国家公務員の労組では最大勢力の国公労連(日本国家公務員労組連合会)もエージェンシー制度導入には反対の姿勢を鮮明にしている34)。これに対して行革会議側は、八木事務局次長がすでに4月上旬から労組幹部との接触を進めており、5月には水野事務局長も調整に加わって、19、20日には連合傘下の国公総連(国家公務員労働組合総連合会)、公労協(国営企業等労働組合協議会)の幹部と相次いで会談し、理解を求めている35)。
しかし、実際に28日の第15回会議で事務局から提示された独立行政法人の「イメージ試案」は抽象的な内容にとどまるものであった。総理への事前説明では独立行政法人化の対象業務が例示されていたが、イメージ試案では「現業的業務、事業会計業務、施設等業務など、広範に検討」という表現になった。また職員身分の問題も、「自律性と柔軟性を付与することにより、実情に応じた効率化・質の向上措置を促進」するという考え方を示すにとどめた。委員からも、今の段階でエージェンシー職員の身分について決めつけない方がよいとの意見が述べられている。行革会議は早めに手の内を見せることで、官公労が態度を硬化させることを警戒しているのではないかと観測された36)。