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(2) 自民党内のエージェンシー構想

制度導入の準備作業は、1996(平成8)年1月に橋本内閣が発足してから始まる。橋本総理は就任直後から自民党行政改革推進本部の水野清本部長、柳沢伯夫事務局長らを督励して行政改革のプラン作りを命じ、両氏らはヨーロッパを視察するなど精力的に調査を進めていったが、そのなかではイギリスのエージェンシー制度にも関心が注がれていった3)。自民党の行革推進本部は6月18日に「橋本行革の基本方向について」(橋本行革ビジョン)を発表するが、そこでは「政策立案機能と制度執行部門との間に適切な距離を設けることを基本とすべき」として、すでにエージェンシー制度の導入が示唆されるのである4)。行革推進本部でイギリスのエージェンシーに関心が寄せられた背景には、それが公務員身分を残し、「生首」を切らない改革であったため、日本で導入するにあたっての実現可能性という観点からも十分に参考たり得るという判断があったのであろう5)

その後、橋本総理は8月上旬に党の行政改革推進本部の幹部らと協議して省庁再編を選挙公約に盛り込むことを決定する。行革推進本部では省庁再編の基本方針として、中央省庁の政策立案部門を整理統合し、一方で事務執行部門を外庁化6)(エージェンシー化)して分離するという方向で本格的な検討に入り、行革推進本部の代表団は8月下旬にイギリスへ行政制度の視察に向かうなど調査を進めた7)。8月下旬にまとめられた自民党の選挙公約ともいえる「橋本行革ビジョン」は、中央省庁が執行業務と政策立案機能を同一組織内に一体不可分に抱えている体制が、行政の肥大化を通じて社会経済に多くのひずみをもたらしているとしたうえで、外庁制を導入して執行業務を分離し、政策立案を担当する本省組織も抜本的に整理統合するとした。外庁制の骨子は、1]外庁は執行業務の処理を専ら行う機関、2]公団等の特殊法人は一部民営化または縮小等の整理合理化のうえ外庁に移行、統合、3]外庁の長には職員人事、事務運営に関し大幅な自主裁量権を付与、という内容であった8)。すでにこの時点で、自民党内では外庁化の対象機関がいくつか想定されている9)。行革推進本部の水野本部長によると、「金融機関の相次ぐ不祥事や薬害エイズ事件をみても分かるが、政策立案と業界を指導育成する部署が同じ省庁ではどうしても行政がゆがむ」という認識が外庁化を進めるねらいの一つだとしている10)。なお、他党においても省庁再編を中心に行革推進の公約が打ち出されていたが11)、エージェンシー制度にふれた党はなかった。

こうして各党が行政改革を公約に掲げるなかで総選挙が実施されたが、結果は自民党が過半数に迫る議席を確保し、11月7日に自社さ連立の第二次橋本内閣が発足する(社民党・さきがけは閣外協力)。橋本総理は組閣後の記者会見の冒頭で「真っ先に取り組みたいと考えておりますことは行政改革です」12)と述べ、行政改革を内閣の最優先課題にすえる考えを明らかにした。

 

 

 

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