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第一部 我が国の現状

 

第1章 独立行政法人化の政治・行政過程

 

1. 「エージェンシー」への着目

(1)日本におけるエージェンシー導入の背景

公共サービスの新しい供給システムといえる独立行政法人の制度が2001年4月からスタートする。この制度は、与党自民党内の構想、行政改革会議の審議、中央省庁等改革推進本部の調整など、およそ4年間の準備作業を経て制度化にこぎつけたものである。本章では、この4年間にわたる独立行政法人の制度化をめぐる政治・行政過程のアウトラインを素描していく。とりわけ関心を寄せるのは、制度化にあたって最も勢力が注がれたとみられる、独立行政法人職員の身分問題の取り扱いと独立行政法人化の対象機関・業務の選定である。

そもそも独立行政法人は、イギリスでサッチャー改革の一環として1988年に創設されたエージェンシーの制度を参考に、政策の立案機能と実施(執行)機能を分離するという観点から構想されたものであった。イギリスのエージェンシー制度は日本でも早くからその内容が研究者や実務家らによってフォローされ1)、おおむね肯定的な評価が与えられてきた。また、こうした発想それ自体は、すでに第一臨調でも「企画事務と実施事務の分離」として示されたところであった。さらに、日本の経済界においては、90年代の日本経済の低迷を背景に、「分離」の発想との共通項を多分に持った、アウトソーシング化や分社化、事業部制といった企業改革を進める民間企業が多数現れてきた。立案機能と実施機能を分離するという構想には、それなりの下地があったといえる。一方、90年代半ばの日本では、バブル崩壊後の処理をめぐって行政機関の政策能力に対する疑問が広がり、加えて官僚不祥事が相次ぐなど、行政機関、行政官への信頼は急速に失われつつあり、さらに財政が急速に悪化の一途をたどるなか、行政改革は待ったなしの情勢となっていた。おりしも当時は96年に解散総選挙が予想されていたこともあり、各党は競って行政改革の推進をアピールするようになり、そこでは中央省庁の再編が重要なテーマになっていく2)。日本でエージェンシー制度の導入が提起されるのは、こうした状況下においてであった。

 

 

 

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