両機関とも、設立前という制約はあったものの、資料に基づき、非公務員型独立行政法人を選択するに至った過程を明らかにしている。すなわち、日本貿易保険は、通産省(当時)が、政策と執行の分離というエージェンシー化の理念に沿いつつも、特許庁の独立行政法人化を阻止するために、早くからその独立行政法人化を考えていたものであり、一方、経済産業研究所は、独立行政法人制度の概要が明らかになった後に、主として、組織の弾力的運営という独立行政法人のメリットを活かすため、あえて非公務員型を選択したものということができる。
とはいえ、日本貿易保険の場合は、制度と実態の甚だしい乖離について、実態にあわせる際に独立行政法人制度を利用したということができるが、ヒアリング結果によれば、利用者にとってのサービス改善に繋がる可能性は高いと考えられる。ただ、多くの特殊法人と同じように、所管省のOBを理事長として迎えたことで、組織の弾力性や本省との分離がどこまで確保できるかは未知数であると考えられる。経済産業研究所は、非公務員型であることを活かそうとする、いわば、独立行政法人の積極型ということができる。非公務員型のもつメリットを最大限活かしたシンクタンクを目指している点は評価できるが、兼官や福利厚生面での既存公務員制度との調整は前途多難であり、予算の確保も含め、制度のメリットを活かす場合の既存制度の壁は依然厚いと指摘されている。
第3章は、我が国の特定独立行政法人に関して、制度設計の内容に見られる問題点を摘出し、今後の公務員制度の在り方との関連で予測される課題を明らかにするという作業に意欲的に取り組んでおり、独立行政法人がイギリスのエージェンシーをモデルとして出発したにもかかわらず、それとの乖離を生み出した過程を「組織」、「業務」、「人」に関わる問題点に焦点をあてながら分析し、独立行政法人全体を横断する課題を分析したものであり、今後、我が国における改革の課題を研究するさいの基本的な視角を提起している。第2章、第3章はいずれも、間もなく発足を迎える時点という制約のもとではあるが、独立行政法人という「新しい行政制度」をとくに公務員制度へのインパクトとのかかわりにおいて分析しており、我が国の今後の独立行政法人の行方に対して示唆する点が多い28)。
第二部第1章は、我が国の「独立行政法人」をはじめ多くの国々から改革プランの参考ないしモデルとされてきたイギリスのエージェンシーについて、サッチャー保守党政権下のその発足とメージャー政権下のその後の進展過程について検討するとともに、エージェンシーのタイプの多様性と運営の現状をふまえて、改革の意図せざる結果について論じている。さらに1997年に政権に復帰した新労働党政権において基本的にエージェンシー改革が受容されるにいたった経緯を検討するとともに、保守党政権の「負の遺産」に対して統合政府(joined-up government)の強化という形で新たな対応を示している点を論じている。