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また、従来からの業績管理の重視という改革の方向については、さらにそれを強化する方向でエージェンシーについてもその業績向上に改革の重点を移しているブレア政権の新しい取り組みについても論及している。

第2章は、イギリスのエージェンシーにほぼ対応すると考えられる米国の業績重視組織(Performance-based Organizations:PBOs)に関する現在までの動向を明らかにすることを主題としている。そこでの中心的テーマは、米国ではPBO化が進展しなかったのはなぜかという問題である。本章の結論部分では、いくつかの興味深い指摘が見られる。第1に、PBOはクリントン政権の国家業績審査(NPR)改革の一環であるが、NPR改革の評価は全面的に肯定的評価を受けているわけではない。第2に、九つのPBO候補組織が提示され、1998年度予算教書に組み込まれたが、現在まで実現したPBOは二つにすぎない。第3に、このようなPBO改革がなかなか実現しない理由は、制度的かつ政治的なものである。つまり、イギリスでは行政改革は一般的に立法化を要しないが、米国では各PBOの設立についても個別立法化が必要であり、議会の影響力が強い米国では立法化は容易ではない。さらに本省や調整官庁、労働組合など実現を妨げるアクターはイギリスなどよりはるか強く存在する。第4に、NPM改革の国際的潮流を否定するわけではないが、このような改革の停滞との関連で、各国の行政改革の実施は、それぞれの国の政治・行政システムや法制度との関連で具体化するものであり、統一的改革に収斂するとはいえないという点についても指摘されている。

第3章は、オーストラリアの最近のNPM改革の強力な推進をとりあげている。すでに1980年代半ばから改革は着手されてきたが、とくに1996年政権についたハワード自由党・国民党連立内閣のもとにおいて、より保守主義的なイデオロギーに立脚したまさにNPM理念をストレートに反映した行政改革が推進されてきたと指摘されている。なかでも他の先進諸国からも注目されている「連邦サービス提供庁」(Commonwealth Service Delivery Agency:通称「センターリンク(centrelink)」)が本章の主題である。このセンターリンクは連邦部門からサービスを独立させ、組織の自己改革を通じて公共サービスの「ワンストップ・ショップ」化を目指すものである。その設立、その戦略的目標と達成度、人事管理などについて最近のデータにより検討されているが、今日、オーストラリアの公共部門改革はOECD諸国の中でも最も民間に近いシステムへと進んでいると指摘されている。他方、センターリンクが本当に市民にとって役立つ「ワンストップ・ショップ」になりうるのか、効率性と社会的価値の調和をどうつけるのかといった問題が今後の課題であるとされている。

(君村昌)

 

 

 

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