・いくつかの機能は政治的に争いの中にまきこまれやすい。例えば、かなりの国で出入国管理はエージェンシーの機能であるが、激しい政治的論争の焦点である。運転免許証のような問題は通常、政治的争いの対象ではない。政治的関心が高いところでは、エージェンシーと主務省との間のインフォーマルな関係が契約上に明記された問題よりも一層重要である(第二部第1章で述べるようなイギリスの例では、刑務所庁の長官は、彼の主要な業績達成目標を充たしたにもかかわらず、政治的に重要な脱獄事件が起こったとき大臣によって解任された)。活動への強い政治的関心は、(IV)タイプのエージェンシー化のもたらす利点を消し去るものではないが、通常その利点を弱めるものである。
(3) 「意図せざる結果」をめぐる争点
上述のように、エージェンシー化のねらいは、その意図通りに実現されるとは限らず、その実現のためにはいくつかの前提条件が必要であることが仮説として提起されてきた。さらにそこには、多くのケースにおいて否定的な結果を生み出す可能性のあるいわゆる「意図せざる結果」についても指摘することができる。
なかでも激しい論争の対象となったものは次のような点である26)。
・公的責任の低下。このことはニュージーランドとイギリスにおいて激しく議論された争点であった。いくつかの国でのエージェンシーの発展に伴い、エージェンシーの上級公務員がその運営責任に関しての質問に答えるために議会の委員会に出頭を要請されるということである。エージェンシーが創設されるとき、透明性が常に一つの争点となる(この問題をめぐる争いについては第二部第1章でイギリスの事例を検討してみたい)。
・公共部門の断片化が生じ、不十分な調整に導くのではないか。特殊専門化は調整の要求を増大させるというのが組織理論の定理である。イギリス国家公務員の4分の3以上が140近いエージェンシーに断片化したことは、調整の問題を難しい課題としてきた。第二部第1章で論じるように、今日の労働党は統合政府(joined-up government)の確立に強い関心を持っている。
・非倫理的行為の増大の危険性。若干の環境のもとで、エージェンシー管理者に与えられる自律性と裁量は、非倫理的な仕方で行使される可能性がある。例えばコンピューターシステムの供給は、友人である地方の会社から購入されることがままある。また管理者はより優れた資格を持つ候補者よりも友人や親類を雇用することがある。このような状況の中でイギリスにおいても最近、公務員倫理の問題がきわめて大きな問題になってきている(1994年に創設されたCommittee on Standard in Public lifeは公務員を含む広く公職にある人々の倫理基準に関して七つの報告書を出してきた。