もちろんフィンランド、スウェーデン、米国において「エージェンシー」というアイデアは決して新しいものではない。これらの国々では長期にわたり、行政の中心的部分に「エージェンシー」と呼ばれる機関が設立されていた。しかし、これらの国々においてさえ、NPM改革に伴うエージェンシー化は若干のインパクトを持っている。例えば米国のPBOの創設は、イギリスのネクスト・ステップス・エージェンシーをモデルにしていると言われる。フィンランドにおいても1990年代半ばにエージェンシーの役割の再検討が行われ、その活動のスリム化と「脱官僚制化」が計られた。スウェーデンでは変革は劇的ではなかったが、1980年代半ばからの財政危機などの圧力は、エージェンシーを合理化し、企業化するいくつかの方策に導き、より厳格な結果志向の体制に従わせることになった。
このようにNPM改革の一構成要素としてのエージェンシー化の概念は、「官僚制を解体」し、より弾力的で業績志向的な公共組織を創設するための中心的ツールとして、多くの分野で設立されてきた。このことは次のような広範な政治的、政策的あるいは、行政上の理由のゆえに必要だと見なされている。
まず、政治的には、エージェンシー化は、行政サービスに対する市民の不信が増大する中で、その正当性を回復する一方法と見なされた。さらにエージェンシーは、もうひとつの政治的意図を含んでいる。ある機能を政権から一定の距離を置くことは、「非政治化」が求められる活動への政党政治的影響力の抑制へのステップになると考えられる。このような機能としては、例えば公共放送の分野などが考えられる。
ついで、政策との関連でエージェンシー化は合理化の一方法と見なされてきた。つまり政策実施の目標と手段を一層明確にし、政策形成の「戦略的」ツールを創設する方法と見なされてきた。明確に任務を与えられたエージェンシーを設定することによって、システムの(配分上の)能率が改善されるとされている。
行政的、管理的観点から、エージェンシー化は、(配分上の)能率に加えて、内部的(技術的)能率改善を実施する中心的ツールと見なされている。繁文縟礼で、市場原理によって規律されない官僚制は業績志向的で、一層容易に管理される部門へ再編成されることによって、再活性化することができる。管理者は管理の自由を与えられ、職員は権限を委譲され、新しい顧客志向文化が自立的組織単位の中に生み出される。さらに、これらの組織単位とその管理層は、一層容易に責任を問われる(透明性が高まる)とされている21)。
このようにエージェンシー化の背景にあるアイデアは、公的組織の民主的責任、配分上の能率、技術的能率といった問題への政治、政策、行政的解決についての複雑な構造をもつ主張である。しかし、タルボットたちは、比較研究のための概念マップを作成するために以下のような二つの中核アイデアを抽出している22)。