そこで、われわれの主題であるエージェンシー改革との関連でNPMの重要な特色を注記してみると、その根底には、民営化や市場化への志向があることは間違いないとしても、狭義の民営化は、新経営管理主義とは異なるものである点に注目すべきであろう。民営化とは本来、民間部門への政府資源の売却であるが、経営管理主義は民間部門の管理の実践を民営化されなかった公共部門の一部に導入することである。また、経営管理主義は、公的資源を配分し、公共サービスの能率を測定する方法として、市場基準を行政内部に導入しようとするものである。上述のように、イギリスにおいては民営化の容易な部門から民営化が実施されていったが、残された保健や出入国管理のような商業的べースに基づかない公共サービスを市場に帰すことは政治的に一層困難になった。そこで民営化を免れたサービスについては「最小の支出で最大の成果」('more with less')を達成するように市場原理に従って、管理改革を行うことが代案として採用された19)。
これは、まさにイギリス政府が1988年ネクスト・ステップス改革を導入するとき行おうとしたことである。もとより本家イギリスでもエージェンシー改革の包括的な評価は未だ下されていないが、イギリスを含めて諸外国では、いくつかのケース・スタディやコメントが蓄積されており、そこから若干のデータを参照することもできる。
なかでもエージェンシー化の国際的な進展の中で、本格的な比較研究を始めるための枠組みについての提言に関するポリットやタルボット達のペーパーは20)、われわれの研究にとってもいくつかの興味深い示唆を与えてくれるように思われる。以下、3及び4で彼らのペーパーの中心点を紹介しながら、二〜三のコメントを加えてみたい。
3. エージェンシーのねらいと二つの中心概念
公共部門組織の一形態としてのエージェンシーの発展は、現代行政改革の重要な部分を構成することになってきた。エージェンシー化(agencification)として通常まとめられてきたイニシアティヴの中には、イギリスのネクスト・ステップス・エージェンシーをはじめ、ニュージーランドの省庁での契約化、カナダの特別運営エージェンシー(Special Operating Agencies; SOAs)、米国の業績重視組織(Performance-Based Organizations; PBOs)、オーストラリアのセンターリンク(Centrelink)、オランダの自立的行政機関(Zelfstandige Bestuursorganen)、さらに我が国の独立行政法人など数多くの事例が含まれている。