日本財団 図書館


3]さらに、これに関しては、国民経済計算との整合性をどのように考えるかという論点がある。国民経済計算は、我が国の経済活動をより総合的に把握する見地から毎年経済企画庁が作成しているものであり、国民所得統計、産業連関表、国際収支表、資金循環表、国民貸借対照表という5つの基幹的統計を相互に関連づけ、1つの体系のもとに統合したものである。具体的には、このうち国民貸借対照表に掲載されている一般政府の期末資産と、国有財産台帳の総額が大きく乖離しているとの指摘がある。

国民経済計算上の一般政府の期末資産には、年金福祉事業団、簡易保険福祉事業団等の一部の事業団の運用資金等や地方政府の資産、更には社会保障基金残高が含まれている点が、国有財産台帳の範囲と異なる。また、公共用財産のうち公園等以外の道路、河川等の財産については、国有財産台帳上は把握されていないが、国民経済計算上はこれらの財産も資産評価されているという点もある(注7)。道路、河川等の国民経済計算上の評価額は、昭和40年代に実施された国富調査のデータに毎年の公共投資の事業費を累計する考え方で算出されている。これら財産の資産評価の方法としてどのようなものがふさわしいのかという論点があり、国の事業の業績評価の観点も踏まえて検討すべきではないかとの意見があった。他方、これらの財産については、そもそも売却可能性が考えにくく、行政コストをかけてまで資産評価をする実益に乏しいとの意見もあった。

なお、社会保障基金残高の取扱いについては、将来発生する膨大な年金支払い債務が考慮されていない事情にも留意を要するとの指摘があった。

なお、国民経済計算上の一般政府の正味資産が近年増加していることを捉えて、同一期間に民間部門の正味資産が減少していることとの対比から批判する見解や、売却可能財産が巨額に上るのではないかとする見解もある。しかし、一般政府の正味資産の増は、主に、社会保障基金の運用資産の残高が増加していることや、経済対策の一環として行われている道路、河川等の公共用財産に対する多額の公共事業費が、前述のような評価方法に基づきそのまま有形資産の増と計上されていること等によるものであり、現実に売却可能な財産が増加していることを意味するものではないと整理される。政府においては、各種の統計の特性を踏まえた実態把握に資するような情報提供に努めることが求められる。

以上のとおり、国民経済計算との整合性については、今後とも、各々の把握する資産の範囲や評価方法の差異、各々の得失を含め、問題の所在を多角的に検討していくことが必要であるが、いずれにせよ、国の資産をどのような範囲で把握するべきか、どのような資産の評価方法が望ましいかについては、どのような見地から国の資産を捉えようとするのかという合目的的な観点から考えていくことが重要である。我が国の経済活動をストックベースで総合的に把握する見地からは、個々の資産の具体的事情を考慮するよりも網羅的、全体的に把握することが有益であると考えられ、また、国の資産の財産的価値に着目して把握する見地からは、売却可能性を前提に個々の資産の価値を積み上げていくことが肝要であろう。さらに、公的部門の業績評価や民営化を検討するための基礎資料という見地からは、国有財産の財産的価値に加えて、それを利用する国の事業についての情報が重要と考えられる。

(注7) 公共用財産のうち道路、河川等の財産については、国有財産法上の国有財産ではあるが、国有財産台帳には記載がされていない(国有財産法第38条及び同法施行令第22条の2第1号により、同法第32条に基づく国有財産台帳備付け義務等の適用が除外されている。)。これらの財産については、それぞれ道路法に基づく道路台帳、河川法に基づく河川台帳等によりその所管大臣が管理しているが、資産価値の評価はなされていない。

 

4]また、国有財産の実質価値に関する論点として、国の抱える負債が多額に上ることを深刻に認識して国政に悪影響を与えないよう尽力することも重要ではあるが、国の信用確保等の見地から、国の資産をできるだけ積極的かつ適切に評価していくべきであるとの意見もあった。

5]国有財産の実質価値に関する情報提供については、前述のように、当面、土地等の財産の台帳価格の時価評価の一層の推進について検討していくことが必要であるが、将来に向け、国有財産を巡る諸事情の動向を踏まえつつ、上記諸論点を念頭に置きながら、国有財産が国民共有の貴重な財産であることを基本として、その把握のあり方を総合的に検討することが望まれる。

 

(4) 国土全体の土地利用に関する情報提供のあり方

国土全体の効率的な土地利用の推進に資する観点から、国公有地、特殊法人所有地も含めた土地利用全体の情報の整理、把握に国が努めるべきであるとの指摘がなされる一方、土地情報の総合的な把握はそれぞれの地方公共団体がまず行うべきであり、国有財産当局としては、国有地に関する情報の地方公共団体等への提供に万全を期すことにより、土地利用に関する総合的な情報の整理に寄与していくべきであるとの指摘がなされた。

いずれにせよ、国有財産当局としては、国有地に関する情報の統一的な整理、把握を一層推進し、地方公共団体等との密接な連携に今まで以上に努める必要がある。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION