(5) 上記の考え方が、前述のような諸議論を踏まえた基本論としては妥当なものである点について異論がなかった。しかし、上記の考え方による判断については、当然のことではあるが、価値と機会費用の諸要素の評価とウェイト付け如何で結論が変わり得るものであり、ある時点において具体的な個々の国有地を売却すべきかどうかの判断が、上記の考え方から必ずしも直ちに明確に導かれるという性格のものではない。また、実際の判断に際して、公共的利益等の具体的試算は一定の前提の下でしか確定した数値が得られないが、いろいろな事案に適用できるような汎用性を有する前提を設けることが現実にはなかなか容易でないこと等も念頭に置く必要がある。さらには、土地という半永久的に利用可能な資産について、どの程度の期間を前提に判断することが適当かという問題や、一般に土地の売却を判断する際には、今後の地価動向についての予測という要素が大きく関係してくるが、国有地の売却に関してこれをどう位置づけるべきかといった問題もある。また、これらの問題については、将来を見通す期間が長いほど予測の不確実性が高まることや、地価の予測は困難であるといったことも考えると、直ちに解決することが難しい面もある。
いずれにせよ、当面公共部門による具体的な利用が見込まれない国有地の売却に関して、例えば国有地は可能な限り売却すべきであるというように一般的に断ずるのではなく、前述のように個別具体的な事案毎に諸事情を整理・分析して判断すべきであると考える。その際、上記の考え方に沿って、当該国有地に関する諸事情につき、実際に全てを数量化するには難しい問題も多く、実務的には帰属賃料等数量化が比較的容易なものと公共的利益を始めとして数量化が困難なものとを総合的に勘案するといった手法にとどまらざるを得ないとしても、国の保有に伴う価値と機会費用とを比較衡量して結論を求めることは有効であろう。また、比較衡量の結果当面保有する未利用国有地については、より効率的、収益的な管理を図るため、管理方策の一つとして定期借地権等の導入や一時貸付の積極的な活用について個別事例に即して具体的に検討すべきである。
売却手法についての検討
平成5年度以降急増している物納財産の処理については、物納財産が本来金銭で納付されるべきものが土地等の財産で納付されたものであること、また、小規模な物件が多いことから、公用、公共用の利用が見込まれない物件に関して、平成6年6月に価格公示売却(注2)制度を創設する等早期売却のための取組みが行われているところである。しかしながら、昨今の土地需要の全般的な冷え込み、地価下落の動きの中で、物納財産を含めた未利用国有地の売買契約の成約率は低下している。
こうした情勢の下、売却すべき国有地について、民間での早期の活用等の観点から、速やかな売却に向けて、以下の方策に取り組んでいく必要がある。
(注2) 価格公示売却
相続税物納で引き受けた財産のうち、300m2以下の土地及び延べ面積200m2以下の建物について、あらかじめ売却価格を示して購入希望者を募り、抽選による当選者等に対して売却する契約方式。
(1) 物納財産の売却価格設定
物納財産については、本来金銭に代えて国に納付されたものであることに鑑みれば、公用、公共用に活用できると見込まれるものを除き、原則として極力速やかに売却されることが望ましい。このような見地から、予定価格については、市場の取引価格を十分に踏まえつつ、機動的な設定を行うよう努めるべきである。
(2) 売買仲介の拡大の検討
現在、価格公示売却及び一般競争入札で売買契約に至らなかった物件については、レインズ(注3)登録を実施し、仲介業者を活用しているが、今後、より多くの需要者を呼び込み売買契約の成約率の向上を図る観点から、一般競争入札等の実施に際しても、仲介業者を積極的に活用する方法を検討すべきである。
(注3) レインズ(REINS)
建設省の進める不動産情報流通システム(Real Estate Information Network System)であり、不動産物件の情報をオンラインネットワークで結び、迅速に情報交換を行い不動産取引をスムーズに進めることを目的としている。
(3) 複数物件を一括して入札に付す方法の導入
公用、公共用の利用が見込まれない財産について、早期かつ効率的に売却するため、個々の土地の需要を十分見極めた上で、近隣に所在する複数の物件を一括して競争入札に付すこととし、平成11年2月、一括入札方式が導入されたところであり、今後、本方式を活用して一括売却の促進に努めるべきである。