議論の概要をまとめると次のとおりである。
公共部門による国有地活用をどのように捉えるかという観点を巡っては、明治時代以降の国有地の利用が街の形成・都市づくりに大きな影響を与えてきた事実をみれば、国有地の利用は世代を超えた長期的な視点で考えるべきであり、また、都市環境の改善のための公用・公共用地の取得は引き続き困難であろうということを考え併せるならば、国有地の処分は将来の公用、公共用利用や都市再開発に備えて慎重に行う必要があるという意見が出される一方、小さな政府を実現して民間活力を促進するため、当面明確な公的利用要望がない国有地は積極的に売却していくべきであり、将来の公用、公共用の需要についてはその時々において対応すれば足りるという意見が出された。
また、現下の経済、財政事情をどのように勘案していくかという観点を巡っては、現下の不動産市場の状況では、国有地の積極的な売却は、国民共有の貴重な財産を売り急ぐことになるので適当でなく、また、不良債権に係る担保不動産問題等を抱える我が国不動産市場に悪影響を与えるおそれがあり、当面売却を抑制的に行うべきであるという意見、さらには、広義の経済対策としてむしろ国有地の拡大を図っていくべきではないかとの意見が出される一方、現下の異例の財政赤字が将来へ大きな負担を残すことを考えれば少しでも公債残高を抑制すべきとの考え方から、当面利用予定のない国有地は可能な限り売却すべきであるという意見が出された。なお、後者の意見に関しては、売却可能な国有地の存在が明らかにされていれば、市場においては公債残高のネット減要因と織り込まれるので、実際にどの時点で売却して公債残高を減ずるかはさほど重要ではないとの意見もあった。
なお、国有地の管理・処分に際しては、地方分権推進の要請を踏まえ、これまで以上に国と地方の一層緊密な意思疎通の確保を図るとともに、個々の土地の利用面だけでなく、周辺の士地を含めたグランド・デザインを踏まえる必要があるという意見もあった。
(3) 上記のように様々な意見が出されたところではあるが、当面公共部門による具体的な利用が見込まれない国有地については、様々な事情を整理・分析した上で、将来の利用に備えて国が保有すべきか、民間に売却すべきかを判断することが必要であり、その際の判断基準の考え方を整理する必要があるという点で意見の一致を見た。
(4) 判断基準の考え方としては、例えば、当該未利用地について、国が保有することにより生ずることが期待される価値と、国が保有することに伴う機会費用とを比較衡量し、前者が後者を上回るような場合には基本的に保有し、逆であれば売却することが考えられる。
1]国が保有することにより生ずることが期待される価値としては、例えば、以下のようなものが考えられる。
まず、駐車場等として暫定活用を行ったような場合の収入や将来、地方公共団体が当該未利用地を住宅として利用する際の入居者からの賃料収入等の帰属賃料が挙げられる。
また、広場として暫定活用を行ったような場合、あるいは将来、公園として利用したような場合には災害時の避難場所として利用することにより防災効果が得られることや、文化財等には建物自体に歴史的価値があることなど、公用、公共用に利用されることに伴ういわば公共的利益が挙げられる。
さらに、将来の公的利用の可能性如何にもよるが、保有せずに売却し、将来当該土地ないし類似の土地を公共用地として再調達する必要が生じた場合の種々のコストを回避できるメリット等が考えられる。あわせて、言わば負の価値として、保有管理コスト等を考慮する必要もある。
2]他方、国が保有することに伴う機会費用としては、例えば当該土地で民間の経済活動が行われないことによる逸失利益等が考えられる。
3]また、将来利用されない可能性もあることを考えれば、国が資産を土地という形態で保有することに伴う地価の変動リスク等についても考慮する必要がある。
上記の考え方によれば、将来の公共的な利用に備えて国有地は極力保有しておくべきとの意見は、将来の公共的な利用に伴う公共的利益を重視する見解であり、小さな政府を実現する観点から国有地は極力売却すべきとの意見は、民間の経済活動が行われないことによる逸失利益を重視する見解と整理できる。また、現下の不動産市場への悪影響を考慮し、当面売却を抑制すべきであるとの立場は、売却を行わなかった場合の不動産市場の安定を公共的利益として捉えたものと考えられよう。