現在、全国的視点に立った港湾のあり方を示すものとして、運輸大臣は「港湾の開発、利用及び保全並びに開発保全航路の開発に関する基本方針(以下「基本方針」という。)」を定め、港湾管理者は、これに適合するよう港湾計画を策定している。しかし、現在の基本方針は、全ての港湾に共通する基本的な事項を定めるに留まっている。
港湾の持つ多様な機能が十分発揮され、効率的・効果的な港湾の整備・管理が各地域の港湾においてなされることによって、我が国の経済構造の改革に資する効率的な物流体系の構築、自然環境や地球環境との共生、安全且つ安定的な国土空間の形成等を実現していくため、国は全国的な、将来貨物量の見通し、効率的・効果的な港湾の配置・機能・能力等を明確に示すべきである。
また、東京湾・大阪湾・伊勢湾の三大湾においても、一つの湾域の中で複数の港湾が存立しており、物流面で背後圏が重なり合っているとともに、自然環境や航行安全の面で相互に密接に関連し合っていることから、全国的な方針と個別の港湾の港湾計画との間をつなぐ湾域についての方針を明らかにすべきである。また、一つの経済圏・生活圏を構成し、あるいは一つの海域を共有している地域ブロックにおいて、複数の港湾の相互の関連が強い場合には、地域ブロックについての同様の方針を明らかにすべきである。
この場合、物流機能に関するものだけではなく、全国的、広域的な観点からの防災対策を考慮すべき耐震強化施設や防災空間、また広域的な観点からの環境の保全・創造等についても、配置等の考え方を示すことが必要である。
なお、全国や地域の方針等については、港湾管理者の意見を踏まえて策定することが必要である。また、これらは、各港の港湾計画を通じて実現されるものであり、港湾計画の策定にあたっては、全国の方針等との整合性を確保することが必要である。
2. 港湾の分類の見直し
我が国の港湾は、大きくは、国の利害に重大な関係を有する港湾である重要港湾とそれ以外の港湾である地方港湾に分類される。また、重要港湾のうち外国貿易の増進上特に重要な港湾は、特定重要港湾に分類される。
港湾の分類により、国と地方の役割分担が異なっており、港湾整備費用の国と地方の負担割合、港湾計画の策定の手続き、直轄事業の実施の有無の点で違いがある。このように国の利害の程度に応じて、国が関与することにより、適切に港湾整備が進められるしくみとなっている。その結果、3種類の港湾がそれぞれの役割を果たし、総体として、交通の発達、国土の適正な利用と均衡ある発展に寄与してきた。
しかし、近年、海上輸送の形態、産業構造、国土開発の方法等、経済・社会情勢が大きく変化し、港湾の果たす役割も大きく変わっている。このため、効率性・公平性の観点から、港湾の分類ごとの役割およびその配置の考え方をあらためて見直し、その上で適切に港湾の分類を指定する必要がある。
重要港湾は、国の利害に重大な関係を有する港湾であることから、次の4つの役割を担う。
ア 低廉で効率的な物流のための海上輸送網の拠点
海上輸送は、経済活動に必要な原料・製品の輸出入や国内輸送の重要な手段となっており、海上輸送を円滑化することを通じて経済活動を支援することは、我が国の経済にとって重要である。
このため、重要港湾は、低廉で効率的な物流のための海上輸送網の拠点となる役割を担う。
イ 必需物資を取り扱う海上輸送網の拠点
四方を海に囲まれた我が国は、食糧やエネルギー等、日常生活に不可欠な必需物資の相当部分を海外からの輸入に依存しており、それらを安定的に供給することは、国民生活の安定にとって重要である。
このため、重要港湾は、必需物資を取り扱う海上輸送網の拠点となる役割を担う。
ウ 国土の均衡ある発展を支える海上輸送網の拠点
細長い列島から構成される我が国において、海上輸送は、物資の輸送の基本的な手段となっているとともに、特に離島においては、旅客輸送の不可欠な手段となっている。このため、全国どこでも最低限度の海上輸送サービスを提供することは、国土の均衡ある発展のため重要である。