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しかし、より一層の物流コストの削減や規制緩和の推進等による経済の活性化が求められるとともに、一連の公共投資批判の中で、港湾についてもその整備の重点化の必要性が問われており、地域づくりに必要な整備にあっても、地域の人々のみならず広く国民の理解を得られる十分な説明責任(アカウンタビリティ)も求められている。

 

第4節 沿岸域の環境保全・創造への貢献と課題

 

(1) 貢献すべき役割

(積極的な取り組みによる良好な環境の提供)

沿岸域は、多様な生物の生息の場のみならず、陸域の気温の急変を和らげ暮らしやすい気候条件を提供する場、教育やレクリエーション等により精神的豊かさを育む場、魚介類等の食糧の提供の場等として、人間の生存にも大きな役割を果たしている。

今後とも我が国国民が、経済的、社会的豊かさを享受しつつ、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会を構築していくため、港湾においても、より広域的な視点を持ち、他の行政機関と連携しつつ、人間の利用のみならず、生物・生態系に対する視点も考慮した「良好な環境の提供」を図る役割を果たす。

特に今後は、環境への負荷軽減をねらいとした従来からの施策に加えて、沿岸域の新たな活用と一体となった良好な環境を創造する総合的な取り組みを積極的に推進すべきである。

 

(安定的な廃棄物処分の空間の提供)

港湾管理者は、港湾開発に伴う土地需要を背景に、背後圏の都市から発生する廃棄物の最終処分場ともなるよう、港湾区域内において廃棄物による海面埋立を行ってきた。

内陸処分場の逼迫と新たな確保が困難となりつつある現状等に鑑み、海面での処分に頼らざるを得ない場合には、良好な環境の保全・創造を図る上でも、引き続き海面処分場におけるより長期的かつ安定的な受入を担うこととし「安定的な廃棄物処分の空間提供」の役割を果たす。

 

(適正に管理された水域の確保)

港湾の適正な管理運営、安全な船舶の航行、港湾や周辺環境の保全等が確保されるよう、港湾区域の適正な管理を行い「適正に管理された水域を確保」する役割を果たす。

海洋性レクリエーションの進展とともに港湾をはじめ公有の水域に放置されるプレジャーボートが増加してきている。

こうした状況に対して、港湾では、適正な規制と管理を基本とした対策を講ずるべきである。一方、プレジャーボートに対しては海洋性レクリエーションの健全な振興の上からも、その適正な保管場所の確保について配慮されるべきである。

 

(2) 対応すべき課題

(環境への負荷の軽減への継続的対応)

臨海工業地帯の形成は我が国の高度成長を支えてきた一方で、1960年代半ばに公害問題の集中を引き起こした。

公害問題に対し、港湾行政においては廃油処理施設の整備(1967年)から始まり、1973年の港湾法の改正において、港湾施設に港湾公害防止施設、廃棄物処理施設、港湾環境整備施設を追加し、環境整備事業として本格的に対応を開始した。併せて、港湾計画の策定や埋立免許の取得の際の環境影響評価制度も導入して対応を図ってきた。

閉鎖性海域に浮遊するごみや油の回収事業、海底の堆積汚泥の除去・覆砂事業、大気汚染対策に資する複合一貫輸送推進のための基盤整備等も含め、これらの環境への負荷軽減に配慮した行政を引き続き進めていくことが求められている。

 

(生活環境の改善への継続的対応)

臨海工業地帯づくりへの偏重、物流革新に対応した港湾機能の高度化の進展は、結果的に、港湾あるいは臨海部から市民を排除することとなった。

こうした課題に対しては、豊かさやゆとりある生活への要求が高まる中で、新たな港湾整備政策として「21世紀への港湾(1985年)」を発表し、生活環境の改善に資する分野への投資の充実も進めてきた。既存の事業制度を活かしながら、親水性の高い緑地や海洋性レクリエーションのための空間の提供が進められてきた。

また、臨海部の土地造成の中で市街地の住工混在解消等のための再開発用地の提供や、臨海部の土地需要への対応と併せた背後市街地からの廃棄物の受入等、生活環境の改善にも寄与してきた。

 

 

 

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