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精神的、物質的な恵みをもたらす豊かな自然環境を、持続的な発展が可能な形で享受しつつ、これを美しく健全な状態で将来世代に引き継いでいくことが国民共通の課題となっている。

港湾には、沿岸域での諸活動の拠点として経済・社会活動を支える基盤としての役割のみならず、沿岸域の環境保全・創造に貢献していくことが新たな世紀を通じて強く求められることとなる。

 

4. 創意と工夫による自立した地域づくりの促進

人々の価値観に応じた暮らしの選択可能性が高く、多様性に富んだ美しい国土づくりを目指した多軸型国土構造の形成が開始されている。各地域の選択と責任による主体的な取り組みを基本として、各地域の特性を活かしつつ、質の高い生活と就業を可能とする自立的な地域づくりを進めていくことが課題となっている。

港湾には、その空間を活用することにより、こうした地域づくりの主役の一人として、ゆとりや潤いのある地域づくり、地域文化や新産業の育成等に貢献していくことが求められることとなる。

 

5. 暮らしの安心と国土の安全の確保

食糧やエネルギー資源の海外依存度の高い我が国においては、日々の生活に欠かせない物資の安定的確保のための取り組みが暮らしの安心の基本的条件である。また、国民の生命や財産を守り、国土の安全性の確保を図っていくのみならず、災害発生時において、迅速かつ適切に対応できるような危機管理体制の充実も急がなければならない。

港湾には、物や人の安定的輸送を担ういわばライフラインとしての機能を確実に果たすとともに、とりわけ災害時の危機管理体制を支える防災拠点としての役割が求められることとなる。

 

第2章 21世紀の港湾のあり方と課題

 

第1節 21世紀の港湾の果たすべき役割

 

我が国においては、国民生活や経済・社会活動に不可欠な物資輸送の大半を海上輸送に依存している。外国貿易の量では99.8%、額では約4分の3に相当する物資が港湾を経由し、国内貨物輸送においても、内航海運がトンキロベースで約4割を分担している。港湾は、こうした海上輸送の拠点としての機能を果たしている。

また、全人口の約4割が港湾の存在する市区町村に集積していることからも明らかなように、港湾は、地域の経済や雇用を支える産業活動の拠点として、日常生活や海洋性レクリエーション等の活動拠点として、さらに、都市活動に伴って生ずる下水や廃棄物の処理空間としても機能している。

このように、国民生活や経済発展に不可欠な社会基盤として港湾の果たしている役割に対する理解は、平常時においては、ややもすれば薄れがちとなるが、阪神・淡路大震災の際には、改めて広く国民に認識されたところである。

 

第1章で見たように、我が国の経済・社会の安定化・成熟化に伴い、港湾に対しては、より効率的な利用、自然環境との共生、災害等の危機への適切な対応といった、多種多様な要請に的確かつ迅速に対応することが求められるようになってきている。特に、自国内で必要な食糧やエネルギー資源等の十分な確保が困難で多くを海外に依存し、かつ国内陸上輸送に多くのエネルギーとコストを必要とする我が国にあっては、港湾は引き続き枢要な社会資本として、地域から世界に至るあらゆる人々に開かれた利活用がされるように整備・管理されることが必要である。

 

21世紀においては、地方の主体性を尊重する港湾法の精神を尊重しつつ、国及び各港湾管理者と利用者が適切な役割分担の下で協力し、港湾を取り巻く関係者とも積極的な連携を図りながら、各々その責務を果たすことにより、地域の、我が国の、そして世界の経済・社会の発展に貢献しうるよう港湾の整備・管理に取り組んで行くことが望まれている。

 

海上輸送が暮らしを支える上で欠かすことのできない重要な交通手段であり、人々の暮らしが沿岸域では"港まち"を中心に展開されている我が国の経済社会の姿を鑑みれば、次の3つの視点から「21世紀の港湾の果たすべき役割」を発揮できるようにするべきである。

 

 

 

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