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しかし、近年の経済・社会のグローバル化の進展や、地球規模での環境の保全・創造に対する認識の高まり等、経済・社会の大きな構造変化の中で、国内の各地域ごとの地域開発を中心とした、従来と同様の考え方に基づく行政対応だけでは、必ずしも十分対応できない状況が顕在化してきている。

 

これまでの港湾行政にあっては、国と港湾管理者との協力的な取り組みにより、当該港湾を中心にした地域開発には大きな効果を発揮したものの、ともすれば港湾管理者の主体性を弱めることにもなり、あるいは国際競争力の強化といった全国的・広域的な視点で取り組むべき国としての港湾行政の姿勢が不鮮明となりがちであった。また、課題解決にあたっても関係する行政間での調整によって対応可能であったことから、行政以外の人々への情報提供の不十分さも手伝い、港湾行政への戸惑いや誤解を抱かれる事例も生じてきている。こうした状況は、国と地方との役割分担の明確化、行政における透明性の向上が求められる現下の行政改革の流れの中で、港湾行政にとっても特に対応が急がれる事項となっている。

 

このような背景の下で、平成10年11月10日、運輸大臣から港湾審議会に「経済・社会の変化に対応した港湾の整備・管理のあり方について」が諮問された。審議会では管理部会において審議にあたることとし、同部会に設置したワーキンググループでの専門的かつ集中的な検討の結果を踏まえ答申をとりまとめた。

本答申は、経済・社会の構造変化に適切に対応し、我が国の安定的な発展と国民生活の向上に引き続き寄与するための21世紀の港湾のあり方と課題について検討を行い、これを踏まえ、早急に対応する必要のある課題を中心に、全国的・広域的視点からの取り組みの強化、地域の主体的な取り組みの支援と強化、環境の保全・創造のための取り組みの強化、港湾行政の透明性・効率性等の向上を港湾行政の進むべき方向として示したものである。

 

第1章 我が国経済・社会の変化と港湾

 

経済の成熟化と並行し、国民の価値観も、物質的な豊かさのみならず、精神的な豊かさを重視する方向へと変化し、生活様式の多様性が重視されるようになってきている。特に国民の経済・社会活動の基盤となる社会資本の整備・管理にあたっては、経済的効率性の向上のみならず、人間活動と自然環境との調和を含めた質的向上が求められる時代となってきている。

こうした変化の中で、我が国にとって重要な社会資本の一つである港湾の今後の整備・管理のあり方を考える時、以下のような経済・社会の構築に貢献していくことが求められている。

 

1. グローバル化に対応した国土構造の形成

経済・社会構造の変化の中で、経済のみならず文化等様々な分野で、国際的な交流や分業が進展してきており、こうしたグローバル化した経済・社会活動は益々活発化することが見込まれている。このような時代にあって、全国各地域がそれぞれ持つ資源や魅力を活かして、世界各地域との交流を促進していけるよう、世界に開かれた国土構造を築くことが課題となっている。

港湾には、地域を世界に開く門戸として、こうした国土づくりを支える役割を発揮することが強く求められることとなる。

 

2. 国際競争力を備えた活力ある経済・社会の構築

経済・社会のグローバル化の進展やアジア諸国の経済の成長は、国境を越えた地域間の競争激化を招き、企業がその活動する国や地域を選ぶ時代を迎えている。また、人口減少・高齢化の進展等により、我が国の経済活力の低下も懸念されている。こうした中で、今後とも、我が国の豊かな国民生活と雇用の安定を確保していくため、経済構造改革等の推進や、産業の国際競争力の確保により、活力ある経済・社会を構築していくことが国政の最重要課題の一つとなっている。

港湾には、海陸を結ぶ物流拠点として、我が国の効率的・効果的な物流構造の構築に資するとともに、グローバル社会の中における国際港湾として競争力の保持が求められることとなる。

 

3. 恵み豊かな自然環境の享受と継承

自然環境の持つ浄化能力や資源の埋蔵量等が有限であることが、改めて強く認識され始めている。

 

 

 

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