日本財団 図書館


(4) 臨港地区の課題

 

(2)で述べたような臨港地区に求められる新たな役割に対する課題を整理すると次のようになる。

 

1) 産業構造の変化への対応

従来の臨港地区は海外からの原料を臨海部や内陸の工場まで搬送し、生産された製品を再び港から輸出するための海陸の結節点としての物流機能と製品やエネルギーを生み出す産業機能が別々に配置され、機能純化が図られていた。

しかしながら経済・社会の変化でも言及したように世界の生産体制が従来の加工貿易型の垂直分業から国際水平分業体制へと変化する中で海外で生産された製品や半製品を国内で加工・組立し再び輸出したり、輸入食料を包装し直して国内に配送するといった従来の重厚長大型の生産機能とは異なる、より簡易でかつ保管配送と結びついた生産形態が増加している。また輸入車を国内仕様に合わせるために一部改良し配送するといった従来にはなかった加工形態も生まれている。

現在の分区制度はそれらの業態の変化に対応したものとはなっておらず、物流機能は商港区、生産機能は工業港区に区分され(用途純化)、商港区では工場の立地は認められていない。

 

2) 市民と港の結びつきの強化

本来臨港地区は貨物の取り扱いや生産活動などの港湾の活動が円滑に進むことを目的としているため、地区内に積極的に一般市民を呼び込むことは避けてきた。

そのため同じ都市のインフラストラクチャーでも、日々の暮らしの中で人々の目に触れる機会が多い道路や空港と比較し、港は市民の意識からは遠いものとなっている。

市民が港に関心を持ち、港が人々の生活に潤いを与えるために、物流・産業機能との調和を図りながらも人々を港まで引き寄せていく仕掛けづくりが必要である。その仕掛けとして親水緑地やにぎわいを生むための商業施設や交流施設の整備が従来より進められてきた。

今後もそれらの整備を進めるとともに、以上のような趣旨からいって、より生活に密着し、潜在的な需要も高く、双方向の交通需要の発生により公共交通機関の効率的な利用が図れる住宅についても港湾機能を阻害しない範囲で考慮されてもよいのではないか。しかしながら分区規制上は住宅は認められていない。

 

3) 低・未利用地の有効活用

バブル経済崩壊後の企業経営の悪化や産業構造の転換に伴い臨港地区内用地の遊休化が生じている。また急速に進む船舶の大型化や荷役形態の変化に伴い陳腐化する港湾施設も生じてきている。これらの用地・施設の土地利用転換を円滑に進めることにより貴重な臨海部ストックの有効活用を図る必要がある。

なお最近では低・未利用地の有効活用の手法として、臨時的あるいは当分の間の暫定活用を図る例も見られ、これらの手法を積極的に導入していくことが望ましい。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION