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施設が充分にあり、公正な競争が充分に働けば、それぞれの能力に応じて特定の施設を異なる主体が独占的に利用することが、社会全体でみた場合に平等原則と無矛盾に実現しうる。

今日のわが国における港湾施設の状況はむしろケース2に近いということができると思われる。すべての営利主体に独占的な利用を保証することができるだけ施設が存在しないとしても、いわゆる公共岸壁が多数存在する状況が確保できるならば、特定の施設を特定私人の独占的利用に委ねても、結果において重大な平等則違反は生じない。もちろんその場合には、新たな公共性担保の補完的な要請として、iv)独占的な利用を認める特定の主体を選択する手続の透明性、公正性が出てくるであろうし、v)それによって独占を認められた営利主体の利益が非常に大きくなる可能性があると評価される場合(競争的な代替施設が充分には存在しない場合)には、原則としてそのような利用は認められないが、仮にそれを他の理由で認める場合には、その独占的利益を全体の利益に還元するメカニズムの確保が要請されることとなろう。

今日のわが国における状況がケース1と異なる重要な要素がもう一つ存在する。それは国際的な港湾の競争の出現という要素である。国際的な競争が存在しない時は、日本向け貨物ないしは日本発の貨物は、いずれにしても日本の港湾のいずれかにおいて処理され、そのコストは日本国内の経済主体や消費者にとって、ある意味で所与のものとして扱われるものであった。しかし、国際的なハブ港湾の競争が存在する今日、国際的な競争で敗れて、日本国内でハブになりうる港湾が存在しないという状況が生じ、それがトータルの輸出、輸入のコストを大きく引き上げており、なおかつそのような状況が岸壁における従来型の平等な取り扱いを止めて、特定の私的主体の独占利用を認めることによって改善されるとすれば、それはまさにii)とiii)の矛盾をii)優先で処理することの欠陥として認識されることとなろう。

効率性を平等性に優先させることで問題が解決され、なおかつ実質的な意味での平等性の担保が可能であるとすれば、公共性の概念における構成要素の優先度を変える事がむしろ合理的な解決と考えられる。

 

4]公共性に関する社会的確信を変化させる要因としての立法――PFI法の成立

公共性を構成する諸要素の、何が、どのような状況で、どの程度優先されるべきかについて、一般的な解は存在しない。その時々の社会各層の判断が公的な決定に反映されるのである。しかし、他の領域ですでに見られるように、そのような社会各層の判断が一定の方向に向かっているかどうかを示す重要な指標が、立法による公共性判断の変遷である。

公共性の判断をもっとも厳格に求められる土地収用の分野において、昭和30年代後半以降「新住宅市街地開発法」、「首都圏の近郊整備地帯および都市開発区域の整備に関する法律」、「近畿圏の近郊整備地帯および都市開発区域の整備に関する法律」が制定され、民間住宅や民間工場のための敷地造成に公用収用が可能になった。そこでは計画実現手段としての公共性という新たな要素が強調されることによって、伝統的には「私用」とされた分野への「公用」収用が可能になった。

そのような観点で言えば、準公共財の増加という社会的背景の下で、伝統的には主体における公共性を非常に強く考えていた公物管理法制において、昨年度PFI法が成立し、契約的手法により、競争入札という手段で透明性を確保するという条件の下で、私的な営利主体が公共性実現に積極的に関与しうる制度を構築したことの意義は大きい。主体における公共性がない場合に、一定の法的な枠組みにおいて、その活動が公共性を担保する手段として評価されるという発想は、岸壁利用の公共性を考える上でも大きな示唆を与えるものといえるのである。

 

 

 

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