日本財団 図書館


経済学的な公共性の一つの定義として「当該活動によって利益を得る人が多勢存在して、その活動による被害が生ずることがある場合に、それを保証してもなお大きな利益が生じている状態」との規定がなされるのも、「公共性」の経済的な価値に着目するものであるといってよい。

それ故、「公共性」概念は、i)政府に代表される定義上営利追求主体ではない主体によって代表される、主体の性格としての公共性、ii)すべての営利主体を平等に取り扱うという受動的な意味での活動の公共性、iii)最大多数の最大幸福を実現するという能動的な意味での公共性という、まったく性質を事にする三要素の混合概念であるということができる。

 

3]公共性を構成する要素の優先度の時代による変化

上記の公共性構成要素の中で、i)とii)iii)とは性格が異なる。i)については後に改めて検討を加える。

一般的に、ii)とiii)とが常に無矛盾の関係にあるとはいえない。岸壁のような施設の利用に関して、すべての主体を平等に取り扱うことが、そうではない場合に比べて、効率性を大きく損ない、その結果として、そうではない場合に比べて国民所得の増加を大幅に減ずるというようなことがあれば、2]と3]との要請が公共性の内部において矛盾しているということができる。その場合には、社会は2]と3]のいずれを優先するかの判断を迫られることとなる。その判断はそれぞれの社会の経済状況によって異なると思われる。

発展途上の経済においては、財政資金も乏しくまた民間の資金も充分ではない。わが国の昭和20年代はまさにそういう時代であった。そのような時代にあっては、大規模な投資を要する施設は財政資金でなければ建設不可能であり、それに投ずることのできる財政資金にも限界があるために、そのような施設の数も限定されざるをえなかった。

極端なケースで、ある社会において岸壁が一つしか建設できないという状態を考えてみよう(ケース1)。そのような状況においては、どこにそれを設けるかについて、当然にiii)の考慮が働くと同時に、その社会で一つしか存在しない当該施設を特定の私人(営利追求主体)の独占的な利用に供する場合には、社会全体で他の同様な営利追求主体の利用が完全に排除されてしまい、権力主体である国家の行為は、特定者の利益実現に手を貸すこと以外のなにものでもなくなる。このような状況でii)の平等性の実現が強く求められることは明らかであるが、それが大きく効率性を損ない最大多数の最大幸福の実現につながらないような場合には、それを私的な営利追求主体と切り離して、i)の主体の公共性の実現を前提に、その独占的な利用を認めることによってii)とiii)の矛盾を回避するという考え方がとられることとなろう。

わが国における港湾法制定当初の考え方はこのようなものであったと思われ、またその後の経済発展の過程で外国貿易路の確保の際にとられた考え方もこのようなものであったと思われる。

社会の経済発展はまったく異なる状況を生じさせている。ケース1と異なり、社会全体で類似の機能を果たす岸壁が多数存在している状況を考えてみよう(ケース2)。その場合には、特定の岸壁から利用を排除された私的な営利主体は、他のすべての岸壁が同じような排除政策をとり、特定の営利主体以外には利用を認めないことをしない限り、営利活動を継続することが可能である。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION