2. 耐衝突構造基準の検討課題
2.1 現行基準
(1) 現行基準による衝突防護構造要件の概要
現在、照射済核燃料等運搬船の構造及び設備等に関する特別基準(海査第520号:平成7年9月19日、海上技術安全局長通達)の中のB種船に適用する基準として、耐衝突構造がある。この中では、耐衝突構造を決定するときの要件として次のような事が示されている。
(a) 衝突船:T-2タンカー
(排水量:Δ=23,400トン、航海速力15ノット)
(b) 衝突船の船首貫入量:被衝突船の計画最大積載状態での喫水線の水面上において船側外板から船体中心線に直角に測って、B/5以上離れた縦通水密隔壁まで。(Bは船の幅)
(c) 衝突吸収エネルギーの計算式:衝突船、被衝突船によって吸収されうるエネルギー(F)は、最低衝突吸収エネルギー(KE) の値以上であること。
ここでΔA:被衝突船の排水量(ton)
ΔB:衝突船の排水量(ton):(23,400トン)
VB:衝突船の船速(knot):(15ノット)
Fは、次の2式で求められた値のうち、いずれか小さい方とする。
F=278・4RT(ton−knot2) (2.1.2)
F=178・7RT+124,000(ton−knot2) (2.1.3)
RT:ミノルスキーの計算方法による抵抗係数 (m2・mm)
2.2 検討課題
現行基準の検討課題として考えられるのは主として以下の事項である。
(a) 衝突代表船としてT-2タンカーを採用
従来の事故例をデータベースとした確率論的評価では、この衝突エネルギーレベルは十分大きめ(安全側)であると判断された。しかし、最近の大型で高速航行する船舶の衝突に対して、どの程度安全性が担保されているのかを確認するべきであるという検討課題は残っている。
(b) 被衝突船船側外板の抵抗力および破壊吸収エネルギーの評価
ミノルスキー法に準拠した場合には、船側外板の強度をいくら大きくしても評価されないという不合理性がある。一方、船側外板の破壊吸収エネルギーの寄与は甲板やフロアなど衝突方向に配置された部材と同程度に大きい場合もあるといわれている。
(c) 抵抗強度の評価
ミノルスキー法では、1950年頃の事故例をデータベースとしており、現行基準では、昭和40年代の実験結果を基にこれを修正している。しかし、ここ30年間の鋼材の品質改善や溶接方法の開発進展は著しいものがあり、部材の抵抗強度基準を見直す必要がある。また、船体構造様式が複雑化した新しい船の抵抗強度が正当に評価されているかどうかの検証が必要と思われる。