こちらも船長にかかわらず基準乾舷(近海規定)との比が一定となることがわかる。これらのことから乾舷に関しては、打ち込み確率の観点からそのレベルを同じとした場合に推定される乾舷値は現行の基準と一定の比例関係にあることがわかる。
限定近海の海象は相対的に近海より沿海でのそれにはるかに近い。また、陸上からの迅速な支援に頼ることが出来ず付近を航行する船舶も比較的まばらであるため自力対処が第一に求められる近海区域に対して限定近海においては陸上からの支援がある程度期待できると考えられる。これらのことを勘案すると、限定近海で必要となる基本乾舷の定量的な推定及び諸修正は沿海規定をベースとして行っても差し支えないものと考えられる。基本乾舷(沿海規定)は満載喫水線規則第70条で規定されている。そこで、限定近海船については第70条で規定された値に限定近海の修正係数として1.06を乗じた値を乾舷値とするということが一案として考えられる。この案にもとづき定められる限定近海船の基本乾舷の一例(Cb=0.68)を図7.4に示す。
7.6.2 船首高さの規定
打ち込み確率の長期予測及び短期予測計算結果から近海規定をもとに推定した限定近海船の船首高さと近海規定による最小船首高さとの比を横軸に船長をとって図7.5に示す。同様に推定を行った沿海船の船首高さと近海規定による最小船首高さとの比を図7.6に示す。また、甲板荷重の長期予測計算結果から近海規定をもとに推定した限定近海船及び沿海船の船首高さと近海規定による最小船首高さとの比を横軸に船長をとって図7.7及び図7.8にそれぞれ示す。船長が短くなるにしたがって比率が大きくなっていることがわかる。日本の沿海及び限定近海の平均的な波長は約47m〜76mとなっており(第2章参照)、沿海船の船長と同程度の長さとなっている。船体の縦運動は船長と波長が同程度のときに最も大きくなるため船長が短くなるにつれてその寄与が大きくなっている事によると考えられる。また、現行の基準では船長が長い船には厳しく、短い船には緩い基準になっているといわれており、今回の検討結果もこれを表した結果となっていると考えられる。一方、船長が100mをこえると比率は船長によりさほど変わらない。これは船長100mをこえると排水量等も大きくなっており船型が違ってきていることや長期予測値に及ぼす平均波周期(波長)のでの寄与が小さくなっているためと考えられる。基準案を検討する際には、甲板荷重より推定した値よりも打ち込み確率で推定した船首高さの方が大きくなっていることから、打ち込み確率をもとにして定めることが妥当だと考えられる。また、図7.9に推定した沿海船の船首高さと限定近海船の船首高さの比を示す。沿海と限定近海の比率は船長にかかわらずほぼ一定となっており、長期予測計算の結果から求めた比率の各船の平均値は0.945となる。これらのことから限定近海船及び沿海船の船首高さを決定する際には、はじめに限定近海の船首高さを決定し、それに沿海用の修正係数として0.945を乗ずることが一案として考えられる。