(b) 甲板荷重による検討
船首高さを検討する場合、打ち込み頻度だけではなく甲板荷重等に付いても検討を行う必要がある。そこで、これらの船舶が近海規定で定められる船首高さを設けて近海を航行した際の甲板荷重の発現確率を本委員会で開発した推定法(第5章参照)に基づき長期予測計算し、これと同じ確率で限定近海を航行した場合に必要となる船首高さを推定した。予測計算を行う際の出会い方位は、ここでは正面向波のみを考えた。
閾値として、設計水圧(造船設計便覧、関西造船協会編)、IACSルールで規定されるバルクキャリアのハッチカバー強度、NK鋼船規則CS編第17条で規定される甲板荷重の3つを用いた。これら3つの指標で定められている甲板荷重はほとんど大差ないことを事前に確認した。荷重の発生確率の妥当性を検討するために(5.2)式の比例定数を出会い方位にかかわらず一定として長期予測計算を行ったところ発生確率は10の-5.5乗程度となった。甲板荷重は向波中でもっとも大きくなるため、実際の確率は10の-5.5乗よりも若干小さくなると考えられる。一方、NK鋼船規則CS編第17条で規定される甲板荷重は事故時の損傷解析をもとに設定しており、その発生確率は10の-6乗よりも若干高い確率で想定しているといわれている(日本海事協会誌No.165, 1978)。これらのことから本委員会で開発した手法による発生確率の推定は現存の指標と整合性がとれていることがわかる。
近海規定により担保している最小船首高さで近海を航行した場合の甲板荷重の発生確率は各船舶の船長等が異なるため多少のばらつきはあるものの、概ね10の-4〜-5乗程度の発生確率となった。この発生確率と同確率で限定近海及び沿海を航行するために必要となる船首高さの計算を各々行なったところ沿海から限定近海に行くには、概ね20〜30cm増加する必要があることがわかった。このようにして推定した船首高さと各船舶の実際の船首高さを比較したところ、今回計算対象とした船舶は全て沿海及び限定近海での必要量を満足している事がわかった。沿海船が規則上船首高さを要件付けられていないにもかかわらず推定値を満足しているのは、経験的に一定の船首高さが必要であることが認識されていることによるものと考えられるが、今後沿海船についても求められる船首高さを規則上明記することも一案として考えられる。
7.6限定近海船の基準案
7.6.1 乾舷の規定
打ち込み確率の長期予測及び短期予測計算結果から沿海規定をもとに推定した乾舷値と基本乾舷(沿海規定)との比を横軸に船長をとって図7.2に示す。船長にかかわらず基本乾舷(沿海規定)との比が一定となることがわかる。ここで長期予測から推定した比率の各船の平均値は1.06である。打ち込み確率の長期予測及び短期予測計算結果から近海規定をもとに推定した乾舷値と基準乾舷(近海規定)との比を横軸に船長をとって図7.3に示す。