(a) 沿海規定をもとにした推定
計算には乾舷計算を沿海規定に基づいて決定している船舶を用いた。基本乾舷で沿海を航行した場合の船体中央部の打ち込み確率は、各船舶の船長等が異なるため多少のばらつきはあるものの、概ね10の-0.4〜-0.5乗程度の打ち込み確率となった。沿海での打ち込み確率で限定近海を航行するために必要となる基本乾舷の計算を行なったところ、その増加量は3〜4cm程度であった。さらに推定した限定近海での基本乾舷に沿海規定の修正(満載喫水線規則第71条〜第74条)を施すことで、各船舶が限定近海を航行するために必要となる乾舷を推定したところ、ほとんどの船舶で、現行の乾舷は限定近海で必要と推定される乾舷の値を満足していることが確認できた。
(b) 近海規定をもとにした推定
近海規定による基準乾舷で近海を航行した場合の船体中央部の打ち込み確率を長期予測計算により推定した。計算対象船は、沿海規定からの推定と同様に乾舷計算を沿海規定に基づいて決定している船舶を用いた。基準乾舷で近海を航行した場合の船体中央部の打ち込み確率は各船舶の船長等が異なるため多少のばらつきはあるものの、概ね10の-0.5乗程度となっている。同じ打ち込み確率で限定近海を航行するために必要となる基本乾舷の推定を行ない、沿海規定の修正を施すことで限定近海を航行するために必要となる乾舷を推定した。その結果を各船舶の実際の乾舷と比較したところほとんどの船舶で限定近海で必要となる乾舷を満足していることがわかった。近海規定は一般的に沿海規定に比べて厳しいといわれており、相対的に厳しい設定である近海規定をもとに限定近海での乾舷を推定した場合でも実際の乾舷は限定近海で必要と推定される乾舷の値を満足していることがわかった。
(2) 限定近海で必要となる船首高さ
(a) 打ち込み確率による検討
沿海船に対しては船首高さに関する規定が無い為、乾舷の様に沿海規定に基づいて船首高さの打ち込み確率を求めることは難しい。そこで、これらの船舶が近海規定で定められる船首高さを設けて近海を航行した際の船首部の打ち込み確率を計算し、これと同じ確率で限定近海を航行した場合に必要となる船首高さを計算した。
近海規定で定められる最小船首高さ(満載喫水線規則第58条)で近海を航行した場合の船首部の打ち込み確率は、各船舶の船長等が異なるため多少のばらつきはあるものの、概ね10の-2乗程度となった。この打ち込み確率で限定近海及び沿海を航行するために必要となる船首高さの計算を各々行なったところ、沿海と限定近海各々の海域で必要となる船首高さを比較すると沿海から限定近海に行くには、概ね5〜10cm増加する必要があることがわかった。また、推定値を各船舶の実際の船首高さと比較したところ、今回計算対象とした船舶は全て沿海及び限定近海での必要量を満足している事がわかった。