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国際課長に就任して

 

海上保安庁総務部国際課長

大須賀英郎

 

役所に就任して、いつのまにか20年余り経ってしまった。この間に3回の海外勤務を繰り返し、その半分近くを海外で過ごした計算になる。日本と外国との間を行き来してみて、我ながら妙な経験をした思うのは、「時差」の経験である。1週間やそこらの海外出張で経験するのは、普通の時差だが、私のは、例えば海外勤務が3年であるとすれば、3年前の「過去」から、当時の3年先の「未来」であった「現在」の日本に帰ってくるということに伴う「大規模な時差」である。普通、こういうものは「時差」といわないと言われそうだが、精神的及び肉体的な調整が必要な点では、時差の一種といってもよいだろうと思っている。

私は、余り日本のものに執着のないせいか、海外では、日本の衛星放送などは余り見ない生活を送ってきた。そうすると、帰国後に経験するのは、テレビのパーソナリティーを始め、会う人、見る人が全て、赴任の年数分だけ年とっている世界である。こうなると、冗談ではなく、自分が「ミニ浦島さん」になっていることを痛感せざるを得ない。

さて、外国にいる間は、当然だが、自分を取り囲む外国の事象のなかで生活している。外国の空気を吸い、外国の「経験」をこころの内部に堆積させている。しかしながら、母国というのはたいしたもので、このような中でも、新聞やテレビを通じていつのまにか日本でのできごとが、こころの中に自然に入ってきて、自分の内面の中で別個の「経験」の層として形成されているらしい。そのため、帰国したあとも、自分の知っていた過去の延長線上にあるはずの現在を、中途の断絶にもかかわらず、比較的すんなりと受入れ、「ミニ浦島さん状態」を克服しうるのである。ここまでは、一度海外勤務を経た人は多かれ少なかれ、経験することではないだろうか。

これが、何回か、海外と日本との間を出たり入ったりしていると任地が気の入った外国であればあるほど、今度は、自己の内面で、その外国の経験が、母国での経験と併存して層を形成するような状態になってくるように感じられる。

 

 

 

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