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5.3 WRが燃料消費量の削減に及ぼす効果について

 

5.3.1 ウェザー・ルーティング・サービスの概要

 

ウェザー・ルーティング(以下、WR)とは「航海中の気象・海象状態をできるかぎり正確に予測し、当該船舶の耐航性能を考慮して、ある評価基準に対する最適な航路を選定すること」とされている。

現在のWRは、低気圧の回避、波浪による減速の影響の低減を主眼として、最適と判断される航路(推薦航路)が示される。船舶の動揺についてシミュレート可能なプログラムも開発されているが、気象予測データの精度の不足から推薦航路の選定には活用されておらず、主にサービス終了後に実施される実況値に基づいた推薦航路の評価に用いられている。

本節では、WRSの歴史的経過およびそのサービスの実際の流れ、使用されるデータ、推薦航路の予測・検証に使用されるコンピューター・プログラムについて概要を示す。

なお、本項をとりまとめるにあたり、WR研究グループ(1991)を参考にした。

 

(1) ウェザー・ルーティング・サービスの変遷

WRは、1957年の米国海軍水路部R. W. Jamesによる「Application of wave forecasts to marine navigation」および東京商船大学杉崎教授による「最適航法の基礎的研究」等の研究論文(1965)により、1970年までにその概念が形成されて行った。

しかし、当時は、気象・海象の予測の精度および、高度経済成長に伴い大型化した船舶の耐航性能の評価手法が不十分であったことから、WRSの大きな効果は期待できるものではなかった。

実際の船舶の運航は、船長が、大洋航路誌、パイロット・チャート等の情報と、過去の実績、経験を基に、これらを照らし合わせ、不十分な気象・海洋情報を目視観測等により補いながら、船舶の安全保持を最優先として行われてきた。また、当時は世界経済も飛躍的な発展を遂げつつあり、船舶の運航経費に対する要求も現在のように厳しいものではなかった。

このような環境の中で、欧米ではWRの初歩的なサービスが開始されている。米国では1950年代に海軍数値予報センターが軍艦を、オランダにおいては、1960年代に気象庁がそのサービスを始めている。民間では、米国のオーシャンルーツ(現、ウェザーニューズ)が商業ベースのWRSを1950年代前半から開始している。

1970年半ばからは、二度にわたるオイルショックとこれに伴う世界経済の低迷により、経済成長期に建造した船舶が過剰となり、運賃市況の低迷、発展途上国の海運への参入等により、先進国の海運は極めて厳しい環境を迎えることとなる。

 

 

 

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