3.5 海洋生物保全
広大な海洋を対象とする観測手段として、衛星利用は有望な手法である。ここでは、特に観測対象が、生物で、移動する鯨観測プロジェクトについて述べる。
3.5.1 海洋生物の回遊挙動
(1) 概要
鯨の行動範囲は、極めて広く、鯨の生態の実態は、ほとんどわかっていない。是に対して、鯨観測プロジェクトは、専用の小型衛星を用いて地球規模で移動する鯨の生態を把握するシステムを構築しようとするものである。技術的な詳細については、前章で述べたのでここでは割愛する。
(2) 生物の回遊挙動計測の現状
・衛星の概要:50kgの小型衛星を利用し、極軌道かつ重力傾度姿勢安定方式を採用する事により地上と常時交信が可能である。
・通信系:WEOS(Whale Ecology Observation Satellite)が備える通信系は以下の3つである。
(a) 鯨から衛星へ送られるテレメトリ電波の受信
使用周波数:400MHz、データレート:1200bps
(b) 衛星から地上局へ向けてのテレメトリ送信
使用周波数:1200MHz、データレート9600bps
(c) 地上局から衛星へ送られるコマンド電波の受信
使用周波数:150MHz、
また、信号処理として、UHF受信機では、FFTプロセッサを組み込むことで妨害信号を排除している。
・プローブ装着のセンサー:プローブには、水圧、水温、地磁気、音声などのセンサーを装備している。
・プローブの電源部:セイコーエプソン社の腕時計に使用されているAGS発電方式を適用し、鯨の運動により発電可能。
(3) 今後の展望
現在、観測プロジェクトが進行中であるが、鯨においてシステムが機能していることが確認されれば、今後は、システムの高度化とともに、鯨以外の生物及び流氷などへの応用が期待される。