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a. DHA(ドコサヘキサエン酸)

DHAのような高度不飽和脂肪酸は、化学合成が困難であるため、天然物から摂取しなければならない。その起源は魚の餌である微細藻類などの海洋微生物である。実際に市場で販売されているDHAは、魚から抽出されたものをカプセル内部に封印したものであり、非常に魚臭いという問題があるため、現在、臭みの少ないDHA作成の研究がなされている。

その一つに、海洋微細藻類によるDHA生産が挙げられる。海洋微細藻類のイソクリシスガルバナは、高度不飽和脂肪酸含有量が非常に高く、他の海洋微細藻類と比較してもDHA生産性が高い。そこで、イソクリシスガルバナのDHA生産効率をさらに高めるために、光供給効率の高いフォトバイオリアクターを用いた高密度培養実験が行われており、最終的に、DHA含有量を1.7倍に増加させることに成功したとの報告がなされている。

DHA生産微細藻類の利用法としては、養殖における飼料が挙げられる。DHAやEPAのような高度不飽和脂肪酸は稚魚の生存率を高めるため、稚魚の初期飼料として用いられるワムシなどに対して、不飽和脂肪酸による栄養強化が行われている。これまで、ワムシの培養にはクロレラや酵母が利用されてきたが、現在では、効率的にDHAを生産可能なイソクリシスガルバナを二次培養に用いて、ワムシの栄養強化が研究されている。その他には、イソクリシスガルバナを用いて作られた、脂肪酸約13%、DHA約2%を含む藻類をニワトリに食べさせ、DHA入りのニワトリの卵を作る研究もなされている。

DHAはまだ医薬品になっていないが、現在、医薬品にするべく医者の治験例を増やしているところである。財団法人相模中央化学研究所において、臨床試験ではDHAの効果が確認されている。

 

b. EPA(エイコサペンタエン酸)

魚脂にEPAを多量に含んだ魚の腸内に共生する微生物の中から、EPA産生菌が発見されている。しかしながら、EPA産生菌の大量培養は、イワシ油からの抽出と比較して、生産コストが不利となる。

これに対して、EPA産生菌からEPAを作る生合成系の遺伝子を抽出し、より高等な微生物や藻類、あるいは高等植物に組み込む研究が行われている。現在、藍藻類であるシアノバクテリアにEPA遺伝子を導入し、EPA生産能を付与するところまで研究が進んでいる。

一方で、メタボリックエンジニアリングを用いたEPAやDHA生産の研究が進められている。メタボリックエンジニアリングとは、遺伝子の組み換えにより、複合酵素群の遺伝子を導入して、その生物の代謝経路を変え、新しく有用な物質を作らせる技術のことである。ここでは、藍藻では合成できないEPAやDHAなどの有用物質の生産を、藍藻に作らせることを目的としている。

 

 

 

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