・微生物のゲノム解析の開始
極限環境への適応を、遺伝子の立場から全容として知るためには、微生物の全遺伝子を明らかにすることが最も完全な方法である。そのために、微生物のゲノム解析手法の確立のため、好アルカリ菌C-125株の全遺伝子解析(ゲノム解析)が開始された。ゲノム解析が本格的に着手されてから、わずか1年足らずで、すでに遺伝子地図が明らかにされ、さらに85%以上の塩基配列が解明されている。この解読速度は、これまでに世界で例をみない速さである。
第II期は、深海の物理化学環境の研究が実施される。微生物にのみ注目するのではなく、微生物が生きている周囲の物理化学環境、特に極限環境における水の状態、構造と微生物との相互作用という観点から研究がなされる。深海の熱水鉱床や海底火山の上における高圧、高温の極限環境下の水として、気体と液体の区別の無くなる超臨界水の研究が開始される。また、第I期では微生物が研究対象であったのに対して、シロウリガイなどの多細胞生物が研究対象とされる。ここでは、新しい学問分野としての圧力生理学を一般の生物にまで拡大するために、多細胞生物の培養細胞を取り扱われる予定である。さらに、好圧菌のゲノム解析が引き続いて実施される予定である。
b. 耐塩性細菌
耐塩性の強い機能をもった遺伝子や、塩を餌にできる細菌の探索も行われている。このような細菌を利用することにより、塩害で放置された大地の蘇生も可能になると期待されている。
c. 大型藻類
多様な遺伝子資源の探索として、コンブのような藻類の中から、未知の化学物質を見つける努力が、米国、日本、欧州でかなり行われている。
d. 無脊椎動物
海洋科学技術センターにより、無人探査機「かいこう」を用いて、平成ll年5月にマリアナ海溝のチャレンジャー海淵(水深約10900m)において潜航調査が行われている。水深10000mを越えるチャレンジャー海淵に生息する生物に関する科学的情報はほとんどないのが現状である。そこで、餌付きトラップなどにより生物の採集が行われた結果、端脚類(ヨコエビ)の採集に成功している。採集したヨコエビの分類学的検討により、形態学的にフィリピン海溝の9600〜9800mで採集されている端脚類と同じ種類であることが判明した。今後、日本海溝など他の海溝域の端脚類も採集し、DNAの塩基配列を調べるなど分子生物学的手法を用いて、それらの詳細な類縁関係が明らかにされる予定である。