3.4.3 海洋遺伝子情報資源によるバイオテクノロジー
(1) 概要
海洋遺伝子情報資源によるバイオテクノロジーは、有用な海洋物の探索に始まり、探索の結果抽出された遺伝子情報資源を元に、海洋生物の育種技術あるいは機能解明についての研究がなされる。有用海洋生物については、近年の技術の進歩と共に、その探索の場が深海にまで拡張されるに至っている。また、海洋生物の育種に関しては、遺伝子操作を用いたトランスジェニック技術注1)や細胞融合技術注2)などについて研究が進められている。海洋生物の機能解明については、前述のバイオミメティクスとも共通する部分があるが、主として、貝殻付着のメカニズムの解明とその防止技術について研究がなされている。
(2) 技術の現状
1] 有用海洋生物の探索
a. 深海微生物(耐圧菌、超好熱菌、好冷菌)
圧力や温度に関して過酷な環境下にある深海底では、その特殊性を生かした深海生物の探索が行われており、特に、我が国や米国、フランスにおいて研究が進んでいる。これまでに、耐圧菌から高圧を付加すると応答する遺伝子が発見されている。一方、海底の熱水鉱床における超好熱菌からは、湯の中で働く酵素洗剤などが開発される可能性もある。
海洋科学技術センターでは、深海微生物の研究分野において世界のトップグループになることを目指し、「深海環境フロンティア」が平成2年10月に設立された。このプロジェクトでは、特に海洋の微生物研究分野で欠けている分子生物学的手法が用いられている。平成10年9月に第I期が終了し、同年10月より7年の予定で第2期の活動が開始された。本フロンティアは、現在、深海環境応答研究、代謝・適応機能研究、ゲノム解析研究の3つの研究チームから構成されている。それぞれの研究チームにおける研究テーマは、表3.4.3-1に示すとおりである。
注1)単離した遺伝子を胚的な(多細胞生物の固体発生における初期)細胞に注入し、その遺伝子を新たに組み込んだ生物固体を作る技術。
注2)隣接細胞を融合して隔壁を消失させた結果、細胞の多核化を起こす技術。