アルギン酸繊維紙により、繊維間同士の摩擦音や内部損失などの問題点が解決された。パイオニア社では、アルギン酸繊維と剛性をもつ繊維とを組み合わせた配合紙からスピーカーコーンが作られ、実際に「バイオコーン」という名称で販売されている。
5] 超電導材料
アルギン酸ベースの前駆体焼成法で、高温超電導体ファイバーが合成されている。
このアルギン酸法では、多価の金属イオンと結合してゲル化する性質のあるアルギン酸ナトリウムを出発原料として、粉末原料に頼らずに高温超電導体ファイバーが作製される。アルギン酸のナトリウム塩は、水に溶けて粘性のある液体(ゾル)になるが、ナトリウムイオンが多価の金属イオンと置換すると、ゲル化する性質がある。そこで、高温超電導体に必要な金属イオンを結合させたファイバー状のアルギン酸金属塩ゲルを作製して焼成することにより、高温超電導体ファイバーができる。
アルギン酸法により作製したYBaCuOファイバーは、粉末を焼結したものと比較して、はるかに緻密である。アルギン酸法は水溶性のあらゆる多価金属イオンに適用できるので、Bi系など、YBaCuO以外の高温超電導への応用も可能である。前述のアルギン酸繊維紙を応用すれば、面状、薄膜の超電導紙が得られる可能性がある。
(3) 今後の展望
バイオミメティクスによる生体の構造や機能をまねた材料創製については、着想自体は新しくないが、工業化例としてはまだ少ないのが現状である。海洋生物は極めて多種多様であり、深海生物など未知の生物の存在も示唆されている。このように多様な生物群の存在する海洋においては、今後のバイオミメティクスのいっそうの進展が期待される。