日本財団 図書館


豊かな海、大阪湾の再生をめざして

 

大阪市立大学工学部環境都市工学科

矢持進

 

大阪湾は赤潮が頻発し、夏季には北部域で底層水の酸素飽和度が著しく低下することなどから、「海洋生物の営みに欠ける死に絶えた海」といったイメージで誤って捉えられている。現実の大阪湾は豊富な植物プランクトンを利用してか、生物生産が活発で、また約230種もの漁業生物が捕獲されている。ただ、夏季の湾北部域が生き物の棲みにくい海となることも事実で、海洋生物の一部は逞しく環境に適応して生きているものの、この季節には出現種類数や現存量が激減してしまう。これは人間が利便性や生活水準の向上を求めて、沿岸域を埋め立て、大量の有機物を海に流し込んだことによって、生態系に大きなひずみが生じてしまったことを物語っている。

干潟や砂浜は海水浄化の場として知られており、また浅海域は魚介類幼稚仔の成育場や保育場としても重要であるとされている。しかし、大都市近郊の海では埋め立てや湾港整備などの沿岸開発によって天然の干潟や砂浜が消失し、市民が自由に自然と親しめる海辺が大変少なくなった。

この講演では、劣化した大阪湾北部域の環境を改善し、豊かな海を取り戻すことの一助になることを目的として、大阪府の渚の現状と生物生息環境としての問題点・生物の生存に必要な酸素濃度、水流発生装置による港湾環境の改善の試みなどについて概説した。

 

講演の概要

1. 渚の現状

大阪府沿岸域の垂直護岸や消波ブロック護岸では外来性の二枚貝であるムラサキイガイが優占し、その現存量(総個体重量)は9600トンに達する。この二枚貝は、夏季に垂直護岸から脱落後死亡し、海底で腐敗・分解するなど、環境にマイナスのインパクトを与えている。これらを垂直護岸におけるムラサキイガイ個体群の窒素収支から説明した。

2. 生物の生存に必要な酸素濃度

大阪湾北部海域において底生魚介類が生息するために必要な酸素条件としては、夏季に1日以上の時間、継続して飽和度30%(1.6mlO2/l)を下回ることがなく、月平均値としては50%(2.6mlO2/l)以上に保持することが望ましいと考えられた。

3. 環境修復

噴流式水流発生装置(MJS-100型)を用いて環境が劣化した漁港において生物生息環境の改善を試みたところ、装置から70m離れた観測点の海底面上0.5m層の酸素飽和度が、装置を設置しない年に比べて約10%上昇し、さらに貧酸素水の鉛直的な厚みも減少した。また、港内10定線で調べたメガベントス相には装置によると考えられる改善効果が認められた。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION